断罪王子の断罪トランスセクシャル
俺の一つ上の兄は、所謂バカ王子だった。
まぁ、兄と言っても実の兄では無い。元々の続柄的には従兄弟だ。そして、お互いの父親が腹違いの兄弟なので、血的にもそこそこ離れていて、全く似ていない。
だが、兄弟として育って来た期間は結構長いので、心情的にはやはり兄だ。
そう、愚かで可愛い、我が兄だ。
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俺の父は現国王だが、王太子は兄である。
そして先程の通り、兄は本当のところは従兄弟だ。
では、なぜ実子である俺が王太子ではないのか。
それはもう、シンプルに血の問題だ。
我がグラハムン王国の王家は大変に子供が出来にくい家系だ。
強い魔力や特別な加護を持つ者を多く輩出した我が家系は、その分、子が授かりづらいようだ。
故に、王家はとにかく励むことを推奨される。
気に入った娘がいて、向こうもオッケーなら、もう身分など関係なく契りを交わせる。
そういう家なのだ。
で、ここからがややこしい。
兄の親は前国王だった。
そんな前国王が残した唯一の子が兄だ。
しかし、前国王は非常に病弱で、兄が二歳になる前には崩御されている。
ちなみに兄の母親は産後の肥立ちが悪く、そこに流行り病が重なって、すぐ儚くなってしまった。
話変わって、俺の父親の方だが、大変に丈夫だ。若い頃は何故か冒険者をやっていたというし、即位するまではずっと軍に身を置いていた。筋骨隆々で、無駄に圧の強いクソ親父だ。
で、このクソ親父だが、親父の母、つまりは俺の祖母は冒険者だ。
なんでも、俺の祖父の元国王が、その凛々しさに惚れて契りを結んだらしい。
一方、兄の祖母は隣国の王女であるとか。
そして、俺の母は親父が冒険者時代に知り合った、これまた冒険者だ。
対して、兄の母はこの国の有力貴族である。
ここまで説明すれば解るだろう。
つまり、兄はやんごとない血しか入ってない純王族である。
しかし、俺は二代に渡って平民の血が入った雑種王族なのだ。
そりゃあ、いくら兄が愚かなポンコツであっても、王太子になろうというものだ。
で。
で。
で、だ。
そのポンコツ王太子が、ついにやりおった。
15歳から18歳までの貴族が入る、王立貴族学園の卒業パーティーで、自分の婚約者を断罪しおったのだ。
いや、馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、よもやここまでの馬鹿だとは思わなかった。
正直、俺も親父も兄には甘すぎて目が曇っていたとしか言いようがない。
確かに一番愚かなのは、あざとい聖女まがいの男爵令嬢に籠絡されて馬鹿をやった我が兄だが、それを止められなかった、俺やクソ親父にも責任はあるだろう。
ともかく。
兄が断罪をしたのは、この国の有力貴族である。なあなあにできる話ではない。
とはいえこの婚約は、元々は向こうから持ち出したもので、当時傾いていたその貴族家の事業を王家が援助する事を主目的に結ばれた婚約だ。
援助をして、事業が持ち直せば王家側にもリターンが見込める話だったし、王家にはそれを復興させる見立てがあった。故に結ばれた。
そして、既に事業の復興は果たされ、王家もまた利益を回収している。
そんな婚約であったので、今回の婚約破棄での損失はあまりない。
主目的は果たされていたため、せいぜい令嬢への慰謝料くらいだ。まぁ、安くはないが、騒ぐ程でもない。
だが、兄の王の資質の無さは存分に露呈してしまった。
お陰で、兄の廃太子と俺の立太子が決まってしまったのだ。
まぁ、そこまでならまだいい。
本当は、王となった兄を陰日向に支えるのが俺の夢だったのだが、まぁいい。
兄が王に向いてないのは正直わかってはいたので、まぁ、いい。
だが、本当の問題はそこじゃない。
そこじゃないのだ。
別の問題がある。
それも大問題だ。
ーーーー
それは、兄の廃太子が決まった日の夜のこと。
夢にこの国の守護神様が出て来たのだ。
「ロンちゃんの兄、雌にすんね」
ちなみにこの国の守護神様は「狂愛の女神」である。
なんでそんなのがと思うやもしれないが、この神、うちの初代国王を持ち前の狂愛で溺愛し尽くした経緯をもつ、初代王妃様だったりする。
「いや、なんで、訳わからんぞ、このクソ先祖」
そして、このクソ先祖は度々俺の夢に出てくる。なんでも俺は嬉しくない事に、この神との親和性が高いらしい。
「怒んなよロンちゃん。これ、悪い話しでもふざけた話しでもないんだって」
なんでも俺は初代様に似ているらしく、この神はやたらと俺に気安い。
ちなみに俺の名はロンベルクだ、よろしく。
「どういうことだ、詳しく話せ」
「かぁ〜、その冷たい瞳があの人にほんとそっくり。しゅき!」
俺は間髪入れずに、クソ先祖の顔面を鷲掴みにした。
「く、わ、し、く、話せ」
「えっとですね、ロンちゃんの兄ね、このままほおっておくとなんやかんや死ぬんですよ……」
クソ先祖曰く……
なんでも兄はこのまま男としておいておくと、死ぬ運命が濃厚らしい。
よくわからない世界の強制力が働いて、なんやかんや死ぬのだとか。
クソ先祖的には別にそれでもよかったらしいが、兄のことを俺が大切にしていることを知っていたので、女神の加護というていで兄を女体化させたらしい。
女性化した場合、兄はサブヒロイン枠になるため、死の強制力からは逃れられるのだとか。
よくわからない説明だったが、とにかくそういう事らしい。
「………なるほど、わかった。兄を助けてくれてありがとう」
「いいってことよ!私とロンちゃんに仲だろぅ!」
この先祖は今までなんだかんだ、俺の不利益になるようなことはしたことがない。
その点では大変に信頼のできる、有り難い存在だ。
「それじゃ、そろそろいくよ」
そんな女神は去り際に……
「これで堂々と犯せるね!よかったね、ロンちゃんっ!」
「…………」
とんでもない事を言い残していったのだった。
ーーーー
そして、今、俺は起床後すぐに、兄を軟禁している部屋へと向かっている。
派手にやらかした兄は現在、無期限の謹慎を受けているのだ。
確認をしなければならない。兄が姉になってしまったというのなら。
「…………む」
軟禁部屋に近づいてみれば、なにやら騒々しくなっていた。部屋の前の衛兵がうろたえているのが見て取れる。
「どうした、お前達」
「ロ、ロンベルク様っ」
俺は状況確認をすべく、衛兵に問いかけた。
その時である。
「ロン!? ロンがきてくれたのかっ!!」
扉の向こうから大声が聞こえた。
よく知るその声色を、若干高く甘くしたような声が。
そして、その声と共に……
「うわああああああああんっ!ロン、ローンーっ!!」
扉が勢いよく開け放たれ、泣き濡れた少女が俺に突撃して来たのだった。
「ロンー!ロンー!なんか、なんか知んないけど、朝起きたら、僕の立派でたくましい○ん○んがなくなっててーっ!!」
「いや、あんたのなんてヤングコーンレベルの粗チンだったじゃないすか」
少女は俺に抱きつき、俺の服で鼻水をぬぐい、俺の服の裾で涙を拭く。
ちなみになぜか少女はネグリジェを着ていて、どう言うことかと専属メイドを見やれば、フンスという鼻息と共にサムズアップをされた。
いや「かわいかろう」じゃないんだよこのクソメイド。とりあえず衛兵は睨んで下げる。ネグリジェ姿なんて見てんじゃねぇ、滅すぞクソ兵士が。
「あと、僕のたくましい腕もプニプニでぇー!!」
「いや大丈夫、もとからプニプニでしたよ」
腕まくりしてきて、俺に二の腕を触らせてくる。すっげぇ柔らかい。
「僕の高身長は見る影もなくて!」
「あんた、もとからシークレットブーツ履く程度には低身長でしたよ」
まぁ、それよりさらに一回り小さく小さくなっているが。
「なぁ、どうしよう!僕これどうなってるんだ!?病気?死ぬ?」
がたがた震えながら俺にすがる、我が兄、だったもの。
問題だ。
大問題だ。
なにが問題かといえば……
「……大丈夫ですよ、病気じゃありません」
俺はこのポンコツがどうしようもなく、可愛い。
元から、可愛くて仕方がないと言うことだろう。
「ほんと?嘘じゃないか?」
「嘘じゃないすよ」
男の頃から可愛いと思ってた。
思ってはいたが、別にそれをどうこうしようとは考えてなかった。
弟として、このまま兄を愛でていこうと思っていた。
だが。
だめだ。
「僕、大丈夫なのかな?」
欲が出てきてしまった。
「ええ、大丈夫」
俺は次代の王。
兄は血筋は最高で、なおかつ神の加護を受けた。
血の近さも問題にする程ではない。
だめだ、御しきれない。
狂ったような、この、どうしようもない、欲望が。
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