八
本日、ガーベラはキリンに店番を任せて冒険者ギルドに来ていた。
薬屋の裏手に薬草畑を作ってはいるが育てる事が可能で良く使うものしか植えていない。
他の薬草は冒険者ギルドで購入するか護衛をつけて採集に行く。
今日は護衛をつけて採集に行く為に冒険者ギルドの扉を開けた。
ガーベラがギルドに入ると受付はそんなに混んでいない様子だった。
壁際のテーブルセットに数人の厳つい男達が腰をかけガーベラの様子を伺っているがガーベラは全く気にせず受付に向かう。
「こんにちわ~。」
「ガーベラさんようこそ。今日はどのようなご用件で?」
ベテラン受付嬢のリリーがガーベラの前に立ち対応をする。
リリーはガーベラより少し年上で華やかなボディの兎の獣人だ。
いつもニコニコ笑顔で冒険者たちを送り出すリリーはギルド内では絶大な人気を誇る。
「リリーさん今日は採集の護衛依頼に来ました。」
「では依頼書の作成をしましょうか。」
ガーベラのこの言葉に様子を伺っていた冒険者達はザワつき何やら相談を始めていたが、ガーベラとリリーは全く気が付かずサクサク依頼書を作成していく。
「ではまた受注した冒険者さんを薬屋に向かわせますので。」
「はい。よろしくお願いします。」
ガーベラがリリーに手を振り冒険者ギルドを後にすると、リリーは早速依頼を掲示板に張り出した。
二日後、閉店間際に依頼を受注したという三人組の冒険者が来た。
「僕達は【ザクフワ】って名前で活動しています。僕がリーダー兼ねる前衛剣士のザラメ、彼女が後衛アーチャーのメレンゲ、彼が盾役のホイップです。」
「私は薬師のガーベラです。」
ガーベラは冒険者としての経験やスタイルの確認をすると早速明日の朝に採集に出かける話にする。
ガーベラの人当たりの良さにホッとした様子の三人は、ギルド内で先輩冒険者達がまだ早いと受注を止めたのは杞憂だと頭から消し去った。
翌朝、街の西ゲートに集合したザクフワの三人は先に来ていたガーベラの予想外の格好を見て絶句した。
ガーベラは男装した上で防具をつけ槍を持って戦闘員のような格好をしていたのだ。
「あ、皆さんおはようございます。」
「「「おはよう…ございます…。」」」
「あ、あのガーベラさん…その格好は…?」
「これですか?採集用の格好ですよ。
ほら、襲われたら危ないじゃないですか。」
「は、はあ…。」
ザクフワの三人は多少の胸騒ぎを感じたが一度受けた依頼を直前でキャンセルするなどよっぽどの事がなければ出来ない。
意を決してガーベラと共に街をでるが、この判断が甘かった事は後ほど嫌という程知るのだった。
普通、冒険者の認識している薬草の採集は比較的街に近い脇道や比較的安全な群生地で薬草を取るというものだが、ガーベラの採集はソレに当てはまらなかった。
「さあ、第一ポイントはここです。」
「「「…ぇ?」」」
ガーベラが指を指した場所は崖の下で覗きこめば濁流が流れている。
薬草があるようには全く見えなかった。
「あのぉ…ガーベラさん?崖しかないですが…。」
「この崖には横穴があるんですよ。その穴の中に薬草があるのです。
横穴に入るにはロープで降りるしかないのであの木にロープを結びます。」
ガーベラは崖の際に生える木の一本にロープを結んだ。
ロープには幾つかコブが作られてはいるが安心出来る要素にはならない。
「わ、私はココの警戒してるわっ!」
「メレンゲ、背中は任せろっ!!」
「お、おい!」
「「ザラメはガーベラさんを護ってっ!!」」
「それではザラメさん、行きましょう。」
仲間の裏切りに恨めしそうな顔をしながらも、ザラメは仕方なくガーベラの後に続いた。
結果、薬草の採集には成功したが中に巨大鳥の巣があり、ロープに捕まりながら襲われザラメが真っ青になりながらもガーベラと帰還。
息を荒くして地面に手をつくザラメの姿にメレンゲとホイップは罪悪感を覚えた。
「ま、街に戻ったら美味しい物でも食べに行こっ!」
「そうだなっ!!今日は俺が奢ろう。」
必死にザラメを元気づけるメレンゲとホイップだったがザラメの返事は弱々しい。
「いいですね。ではサクサク終わらせて早く街に帰らなきゃいけませんね。
次に行きましょう。」
そこから第二ポイントではメレンゲが牛の群れに追いかけられ、第三ポイントではホイップとザラメが襲ってくる大蛇を倒し、第四ポイントの湖で肉食巨大魚とザクフワ全員で戯れてやっと街に帰還となった。
「お疲れ様でした~。ゆっくりご飯楽しんできて下さいね。」
「「「…はい。」」」
薬草がいっぱい入った籠を持ち軽い足取りで薬屋に帰るガーベラとは裏腹にザクフワの面々はズダボロだった。
「あ、また依頼受けて下さいね~。」
少し離れてから振り向いたガーベラは手を振りながら叫んだがザクフワからの返事はなかった。
~本日の成分~
・先輩の優しい心
・採集舐めたらアカン
・静かなる食事
・ガーベラからの指名依頼からの逃亡