五
今日は薬屋マーガレットの定休日。
CLOSEの看板をかけてガーベラとキリンは朝から街に繰り出した。
「ローワンさんおはようございま~す。」
「薬屋のガーベラとキリンが来ましたよ~!」
個人医の家の前でドアを叩きながら大きな声で呼びかけるとゆっくりとドアが開かれる。
中からは黒縁メガネをかけた白い髪の女性がダルそうに顔を出した。
「聞こえてるからも少し静かに頼む。」
「だってこれくらいじゃなきゃローワンさん起きないじゃないですか!」
「身だしなみもそんなですし…寝てたんですよね?…まさか二日酔いですか?」
髪はぐしゃぐしゃでメガネは傾いており着ているシワだらけの白衣の間からは外着ではなく寝着と一目でわかる薄衣が見えている。
「いや、少し睡眠不足なだけだ。とりあえず中へ入れ。」
双子はローワンに促され家の中に入った。
リビングに通されたが物が多くごちゃごちゃしており決して綺麗とは言い難い。
「片付けましょうか!」
「いらん。金をとるのだろ?」
「そんな事はしませんよ!」
ニッコリ笑顔のキリンをジト目でみるローワンは橋に置かれたカバンから袋を取り出しキリンに投げた。
「それがこの前の薬代だ。」
キリンは受け取った袋の中を確認すると直ぐにポーチにしまった。
「「ありがとうございます。」」
「また頼む。…私は寝るからまたな。」
欠伸をするローワンに手を振り双子は外に出ると次は教会に向かった。
双子が出て行った部屋ではローワンが椅子に座りコップに入った水を飲み干し深いため息をついていた。
「本当に…マーガレットも厄介な忘れ形見を残したな。」
ローワンはマーガレットおばあちゃんとも長年親交があった。
いつもニコニコとしておっとりとしたマーガレットおばあちゃんはローワンに無いものをたくさん持っていた。
暖かい雰囲気、笑顔、家族、あげたら切りがない。
ローワンにとってマーガレットおばあちゃんは大切な存在だったが急に倒れたマーガレットおばあちゃんを救う事は出来なかった。
ローワンにとっては医者を辞めたくなる程の出来事だったが今も医者を続けている。
それは他でもない双子とマーガレットおばあちゃんのせいだ。
薬屋マーガレットで処置をしている間にストリートチルドレン達がローワンを探す。
請求はローワンに一喝で支払い、ローワンの診療時間外に双子が薬代を受け取りに行く。
実に合理的なこのシステムはマーガレットおばあちゃんと双子の案だ。
マーガレットおばあちゃんが亡くなって数日後、双子がローワンの元を訪ねて協力して欲しいと頭を下げた。
「一人でも多く人を助けたいっておばあちゃんと考えたんです。」
「誰かが悲しむ姿を見たくないんです!」
「「って言えばローワンさんは断れないっておばあちゃんが言ってました。」」
イタズラに笑うマーガレットおばあちゃんの顔が浮かんだローワンは不覚にも大爆笑。
双子の頭をぐしゃぐしゃに撫でて抱きしめた。
それから双子が可愛くて仕方がないが決して顔には出さない。
「本当…厄介だな。嫁に出せそうも無い。」
ローワンは自分から家族を奪うであろう男を妄想しながら何度も返り討ちにした。
~本日の成分1~
・マーガレットおばあちゃんの純粋な気持ち
・双子を護る不器用なガーディアン