四
「急患だっ!回復薬をくれっ!!」
天気の良い昼下がり、乱暴に開かれたドアから血塗れの人間を担いだガレットが入ってきた。
ガーベラが人が寝れるスペースをつくるとガレットは担いでいた人間をそこに寝かせる。
担がれていたのは身なりの良い青年で意識は無い。
「何があったんですか?」
「野党に襲われたんだ。コイツは身なりが良かったから敵が集中した。
他の奴は軽傷だから傷薬渡して後始末やら任せて俺だけコイツを担いできた。」
ガレットから事情を聞きならがガーベラは青年の服を切り裂いていく。
「酷い傷…。」
引き締まった身体には複数の切り傷があり、右肩の傷は肉が抉れているようだった。
「ガーベラ!必要そうな薬類ここに置くね。私は医者呼んでくる!」
「お願いね~。」
街には医院が二つと個人医が一人いる。
二つの医院はそれぞれ貴族専用と平民専用となっている。
貴族専用の医院は身分が証明できなければ診てもらえず、平民専用の医院は来ている患者で手がいっぱいだ。
個人医のローワンが急患や宅診を担っているが各宅を回っている為に自宅に行っても居る事は少ない。
「ダメ!やっぱり居ない…。」
キリンがローワンの自宅に着くと戸締りがされ回診中と看板がかけられていた。
しかし、こういう時の為に連絡手段は作られている。
キリンはキョロキョロと周りを見回すと店の向かいに座りこんでいる少し汚れた格好をした少年に近づいた。
「急患なの!薬屋マーガレットに直ぐ来て欲しい!!手付けはコレよ。」
「わかった!」
キリンから硬貨の入った袋を掻っぱらうとそのまま路地裏に走り出した。
少年はこの辺りのストリートチルドレンのリーダーでローワンが留守の時の連絡役をしている。
彼らは連携を取り必ず個人医を連れてきてくれる。
キリンは来た道をまた走り出した。
「いや~本当に助かった!ありがとう!!」
青年が運び込まれてから三日後、まだ全快では無いものの無事に歩けるまで回復して薬屋マーガレットを訪れていた。
顔色は幾分か良くなり元気そうなその姿に双子もホッとし自然と笑顔が溢れる。
「順調に回復しているようで良かったです。」
「あまり無茶をしないで下さいね!」
青年は頬を染め惚けながら双子に見とれた。
双子は反応の無くなったから青年の顔の前で手を振ったりしてみるがやはり反応は無い。
「どうしたのかな?」
「体調悪くなってきたのかな?」
ローワンの元に送っていくか双子が悩み始めると青年はバッといきなり双子の右手を両手で掴み万遍の笑みで口を開いた。
「私の妻になってくれ!」
「「え?どっちに言ってるんですか?」」
「二人共だ!」
青年が何を言っているのか双子は一瞬理解が出来なかった。
この国は一夫多妻は認められていない。
出会って数日でいきなりプロポーズし、姉妹そろって嫁に来いなんて言う男に頷く女性はほぼ皆無だ。
「なんの冗談…。」
「私はいたって真面目だ!」
「…とりあえずお茶でも飲んで落ち着いて下さい。」
ガーベラは青年にコップを差し出した。
青年はそれを受け取ると一気に飲み干す。
そしてバターンと音を立て床に倒れた。
「…ガーベラ、グッジョブ!」
「エネルギードリンク改め睡眠薬ね。」
ニッコリ笑顔をつくるガーベラにキリンは親指を立てて讃えた。
双子が青年をどうするか悩んでいると、タイミング良くドアが開かれガレットが入ってきた。
「この前は助かったよ…ってなんだこの状況。」
「まだ回復仕切ってないのにうちに来ていきなり寝てしまったのです。」
「ガレットさん調度良いので回収して下さい!」
「回収…一応身分ある奴みたいだから放っては置けないけどな…。」
「「身分?」」
ガレットは懐から一枚の髪を出し双子にみせた。
それを見た双子は眼を見開き震える。
「王子……コレが…。」
「懸賞金…王子なのに…!」
「正しくは報奨金だな。隣国の第五王子で見合いが嫌で飛び出してったらしいぜ。
見合い相手が気に入ってるからと王様が全力で連れ戻そうとして指名手配らしい。」
「ガレットさん…。」
「報奨金は山分けでお願いします!」
その後、青年は隣国に返され双子とガレットは報奨金をゲットし懐が潤った。しかし…
「父上へ。
妻にしたい人が出来ました。
ちょっと口説き落として来ます?
……許すかあああ!あ奴を連れ戻せぇぇぇ!!」
置き手紙を残し直ぐに脱走した王子に王は激昂し家臣達に再度指名手配をさせた。
「待っててくれ!私は諦めない!!」
~本日の成分~
・絵本の中の王子様
・急患のち強メンタル
・ツルツルの王様