三
「いらっしゃいませー!」
この日はキリンだけで店番。
ドアを開けて入って来たのは初めてみる顔で少しおどおどした少年だった。
「あ、あの…。」
「はい!何をお探しですか?」
「傷薬…。」
見た目的に八歳くらいだろうか。
少年の身なりはあまり良いとは言えないがお客様に違いはない。
が、それはお金があってこそ。
「傷薬ですね!買う為のお金はありますか?」
キリンの質問に少年はコクコクと二回頷き手の中にある硬貨を見せた。
少年の手の中にあるのは銀貨が三枚、傷薬は銀貨二枚程なので買う事ができる。つまりはキリンにとっては正しくお客様だ。
「傷薬は二つあります!どちらが良いでしょうか。」
キリンは右側と左側の棚からそれぞれ色の違う傷薬を取り出した。
それぞれケースの色が違い、右側の棚から取り出した傷薬のケースは白く左側の棚から取り出した傷薬のケースはオレンジ色をしている。
「…何が違うの?」
「効能は結構違いますよ!詳しくは…。」
キリンが少年に説明をしようとすると再び店のドアが開き常連客一の高齢者であるガナッシュが杖をついて入ってきた。
「いらっしゃいませー!」
「キリンちゃんこんにちわ。おや、今日は小さなお客さんがいるね。」
「そうなんですよ!初めての来店で今傷薬を選んでもらっていたんです。」
「なんだって!坊や、儂は白いケースの傷薬が良いと思うよ。」
「白…。」
「ああそうだ。坊やがつくる傷はかすり傷やちょっとした切り傷だろう?
それぐらいならば安心安全のマーガレット印の傷薬が良い。」
「じゃあ白…。」
「ちょっと待ったー!」
少年がガナッシュの推す白いケースの傷薬に決めようとした時、店のドアが勢い良く開いた。
ドスドスと入って来たのは常連客一のマッスルボディの持ち主である肉屋のトルテだった。
「ガナッシュじいさん、ガーベラ印のオレンジの傷薬だって安心安全だ。
しかも、俺が包丁で指を落とす寸前まで深く切っちまった時この傷薬で治ったんだ!断然、こっちだろ!」
「すごい…。」
少年の目の前でいがみ合うガナッシュとトルテは一歩も引く様子はなく少年はアワアワとしながら困っていた。
静観していたキリンはニヤリと笑った。
その歪んだ笑顔は誰の目にも入らなかったがとてもじゃないがお客様の前でして良い顔では無かった。
キリンはクルリと身体を百八十度回転させると両手に持つ傷薬をカウンターに置きポケットに手を入れアワアワとする少年の前に手で掴んだ物を差し出した。
「実は!常連様のこの様なやり取りがきっかけでお試しセットを作ってみたのですが…いかがですか?
両方の傷薬を少し小さめの容器に入れて一つずつ、これで銀貨三枚。」
「それ買います!」
「はい!お買い上げありがとうございます。」
傷薬お試しセットと銀貨を交換すると少年は元気よくドアを開けて店を出て行った。
「ガレットさん、トルテさんも!お試しセット使ってみませんか?ケンカしてないでお互いの良さを知るのも良いと思いますよ。」
「ん~まぁその大きさなら試しても良いか…。」
「そうだな…比べるには良い大きさか?」
「毎度ありがとうございます!」
お試しセットを手に店を出る二人に笑顔で手を振るキリンはドアが閉まると直ぐにキリンはカウンターの中に入りイスに座る。
「その場の勢いで銀貨三枚にしちゃったけど通って良かった!」
キリンは上機嫌でチビ傷薬を袋詰めしお試しセットを量産していった。
~本日の成分~
・贄の少年
・マーガレット派とガーベラ派
・お試しセット