十一
ガーベラは最近とても悩んでいる事があった。
それはキリンにも相談し難い、むしろキリンに知られると不味い事…。
だがバレるのも時間の問題だ。
何故ならそれはキリンに関係する事でいつ気がついても可笑しくないからだ。
「はぁ…。」
思わず漏れるため息は解決策を閃かせてはくれない。
ガーベラはただキリンに気づかれない事を祈るのみだった。
事の起こりは五日前、キリンがローワンに頼まれ配達に行き、ガーベラが一人で店番をしている時。
気まぐれに店の掃除をし始めたガーベラはガチャンという音に手を止めた。
恐る恐る確認してみると音を立てたのはキリンが崇めている幸福のニャンコ様像でニャンコ様は床で綺麗に真っ二つになっていた。
「……。」
絶句。それ以外なかった。
段々と思考が戻ってきたのは数十秒後、頭の中がマズイという言葉でいっぱいになる。
「お、落ち着いてガーベラ。ニャンコ様は粉々な訳じゃない。修復すれば良いの。」
震える手で恐る恐るニャンコ様の大きめの欠片を手に取ると試しに合わせる。
いけると判断したガーベラはカウンター裏から糊を取り出しピースを合わせていった。
「ふぅ…概ねどうにかなったかな。」
額の汗を拭うとガーベラは修復されたニャンコ様をそっと元の位置に戻す。
前からみる分には割れているようには見えない。
しかし、後ろ側は一部が細かく欠けていたりするのでひと目でバレてしまう。
「これ…何処で買ったんだろ…。」
キリンが気がつく前に新しい物と差し替えたいところだが何処で購入したものかガーベラは知らない。
本人に確認したいところだがキリンにバレれば大変な怒り様になりガーベラの趣味を禁止されかねない。
それから五日間、ガーベラは打開策も代わりも見つける事ができずに心休まらない時を過ごしていた。
「あ、ニャンコ!」
「!!」
「ほら外の植木ところ!可愛いね!!」
「…そうだね。」
植木で毛ずくろいしている猫に癒されるキリンとは対照的にガーベラは【ニャンコ】の言葉に肝を冷やす。
明らかに挙動不審になっているガーベラだったがキリンに気にした様子は無い。
「ねぇガーベラ!ニャンコーー」
「ニャニャニャニャンコ?」
「ニャンコの入れ物使った商品作りを…ってどうしたの?」
「ニャンでもないよ。」
ガーベラはギブアップ寸前だ。
もういっその事話してしまった方が楽かもしれない。
そう思って口を開きかけたその時ガーベラに神は降臨した。
ガーベラはキリンに店番を頼み街に出ると粘土と絵の具を入手しそのまま調合室に篭った。
そう、ニャンコ様を自作する事にしたのだ。
「やれる。私なら出来る。」
作業に没頭する事丸一日、ガーベラは出来上がったニャンコ様を満足げに手に取りクルクルと踊り出す。
「完璧。」
「何が完璧なのかな!」
その声はガーベラの背後からかけられた。
恐る恐る振り向くとそこには万遍の笑みを浮かべたキリンの姿がありガーベラは戦慄した。
「私が気が付かない訳ないでしょ!まったく…。」
「い、いつから…。」
「三日前から気づいてたよ!」
「い、言ってよ~…。ごめん、お掃除してたら落としちゃって…キリン凄く大切にしてたでしょ?」
「大切にしてたよ!この子の価値をね。」
キリンは後ろ手に持っていたひび割れたニャンコ様を天高く掲げる。
「このつぶらな瞳!首輪部分の鈴これを愛さずして何を愛すと言うの!!」
「ダイヤ…きん…。」
ガーベラは自分の頑張りが無になった事を悟った。
思い悩んだ日々は何だったのかと怒りすら湧いてくる。
しかし悪いのは自分だ。
「ほら、これなら泥棒とか気にしなさそうでしょ?私の大切な資産、絶対奪わせないわっ!」
「あ…そうですか…。」
「まあ、割れちゃったし他のカモフラージュ考えようかな。せっかくだからガーベラが作ったニャンコ様飾ろ!」
「うん。」
双子は調合室を出ると元々ニャンコ様がいた場所にガーベラのニャンコ様を飾った。
「うん!可愛い可愛い!!」
明日からも双子の日常は続いていく。
のんびり少し騒がしく街の人々と。
~本日の成分~
・高価なニャンコ様
・手先が器用なガーベラ
・ブレないキリン
FIN