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「ガーベラ姉さま、キリン姉さま、私をここで働かせて下さいっ!」


店に入るなりそう言って頭を下げたのは美少年と名高く、ガーベラとキリンを姉と慕う、薬屋の三軒先にある花屋の子エディブルだった。


「急にどうしたのですか?」


「まさか花屋に何か?!」


「実は…母さんと言い合いになって家出してきましたっ!」


「家出…。」


「家出先近っ!」


エディブルの話では事が起こったのは今朝の開店準備中。

誕生日の母親の為にエディブルは朝早く起きて花束を作ったそうだ。

喜んでくれると確信して渡し、祝いの言葉を口にしようとした次の瞬間。


「ん~コレじゃあまだ花束は任せられないわ。」


ここから延々とダメ出しが続き流石のエディブルもキレた。

最後は互いに大声で怒鳴りあいエディブルは飛び出してきたと話した。


「それは…。」


「きっと誕生日プレゼントだなんて思ってなかったんでしょ。エディブルも分かってるよね!」


「それは…でも、あれは許せません!!」


双子は呆れた様子で顔を見合わせた。

意地になっているエディブルに何を言ったところで無駄だ。

とりあえずキリンは花屋にエディブルを預かっている事を伝えに行き、ガーベラは傷だらけになっているエディブルの手を消毒する事にした。




「ただいま!」


「おかえりなさい。どうだった?」


「しばらく宜しくだって!あっちはあっちで怒り心頭だったよ。」


キリンいわく、親に怒鳴り散らして店を放って出て行った事に大層ご立腹で居所が知れたからか頭が冷えるまで帰って来るなとまで言われたらしい。


「まあ…うちとしては助かってはいるんだけどね。」


本日、薬屋にはいつもよりたくさんの客がきている。しかも女子ばかりだ。

彼女らの目当てはもちろん薬では無い。


「エディブルは何時に上がるの?」


「お花屋さんはいいの~?」


エディブルに群がる女子達はどう見ても薬に興味は無さそうでただ店の中を占領する。

流石に双子も迷惑に思っていても必要としていない人間に薬を買えとは言えない。


しかしキリンはこの客をみすみす逃すような事はしなかった。


カウンターの上にドーンと音を立てて置いたのは籠いっぱいのクッキーだ。


「このクッキーは恋する乙女の味方。相手と一緒に食べればドキドキが加速して仲を深められるかもねっ!」


その魔法の言葉はエディブルに夢中だった女子は一斉にクッキーに群がった。


「買うわっ!」


「待ちなさい!取りすぎよっ!!」


「邪魔しないで私が先よっ!!!」


先程までの可愛らしい姿が一変しまるで飢えた野獣のような形相にエディブルの笑顔は引きつった。


「ありがとうございました!」


クッキーを購入した女子達はゆっくりとエディブルに近づきクッキーの封を切る。


「ねぇエディブル…美味しいクッキーを一緒にどう?」


「甘いもの、好きだったよね。」


エディブルは身の危険を感じた。

ジリジリと寄ってくる女子達の眼はとても正気に思えない。


「そういえば、エディブル休憩してないですね。」


「行ってきます!ガーベラ姉さまありがとー!!」


エディブルは安全地帯を求めて店の外へ駆け出した。

後ろは振り返らない。


それ等を見送る双子はガランとした店の中でため息をついて戻ってきた日常に安堵する。


「エディブルには悪いけどないかな。」


「今日中にお引き取り願いたいかな!」


女子達を巻いて戻ってきたエディブルはフラフラと薬屋に戻ってきた。

すると、そこにはガーベラとエディブルの母親の姿があった。


「母さん?!店はどうしたの!」


「キリンちゃんがみてくれてるよ。薬屋さんに迷惑かけたそうじゃないか。帰ってきな。」


「め、迷惑なんてかけてないっ!」


俯くエディブルの肩にガーベラがそっと手を置く。


「エディブル、叔母さんは誕生日プレゼントに花束をくれた事分かってたよ。ただ素直になれなかったんだって。」


「え?」


「ごめんよ。何だか気恥ずかしくてねぇ。嬉し買ったのに余計な事いったねぇ。」


「母さん…。」


無事エディブルは連れて帰られ、キリンが戻るとそこからは通常通りの平和な薬屋に戻ったはずだった。

しかし、翌日エディブルは再び薬屋に来た。


「母さんが自分から働きたいって言ったならちゃんとして来いって。時間は短縮するけどここに来ていいですか?」


「もちろん!まだクッキーあるからっ!!」


キリンが籠いっぱいのクッキーを見せると若干エディブルの顔は引きつったがエディブルは昨日とは違った。


「このクッキー…美味しいんだ。君たちにも食べて欲しいな。」


「…買います。」


その日から薬屋では【エディブルのドキドキクッキー】という商品が売り出された。

エディブルの甘い囁きと共に手渡されるクッキーは即日完売で行列ができ売上に大変な貢献をしている。


列をつくる女子達は知らない。

クッキーは興奮作用のある食べ物が練り込まれているだけだという事を。

エディブルが実は女子である事を。



~本日の成分~


・塚系女子エディブル

・ドキドキクッキー

・恋する乙女

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