一
(バタンッ!)
「ガレットさんっ!しっかりして下さいっ!!」
薬屋マーガレットのカウンター前で常連客のガレットが突如倒れた。
店員の一人、キリンがレモンイエローの髪を振り乱し慌てて駆け寄り呼びかけるが反応は無い。
もう一人の店員、ガーベラはその様子をカウンターの中からただ見ていた。
陽の光に透けるブラッドオレンジの髪がまるで鮮血のように鮮やかだった。
アプリコット国の街の一つ、ソイにある薬屋マーガレットは双子の姉妹が切り盛りする評判の店だ。
双子の姉のガーベラが薬を調合し、妹のキリンが店に並べ互いに助け合いながら切り盛りしていた。
とびきり美人という訳では無いがパッチリ二重のブラウンの瞳は愛嬌が良く、ガーベラとキリンの社交的な性格もあり老若男女問わず人気がある双子の店は常連客の憩いの場にもなっていたりする。
「「いらっしゃいませー。」」
「おう。今日は常備薬の補充に来たんだ。これを頼む。」
来店した常連客のガレットはカウンターに肩肘をつきキリンにメモを渡す。
それを受け取ったキリンはメモを見ながら店内をまわり始めた。
「いつもありがとうございます。運送業は順調ですか?」
「ああ、いつも通りだよ。隣街との往復だからね。本当に怪我ばっかりだ。」
「気をつけて下さいね。」
「ガーベラちゃんは優しいな~。」
デレるガレットにガーベラはそっと木のコップを差し出す。
爽やかな柑橘系の香りが広がり気分が明るくなるそのお茶は鮮やかな黄緑色をしていた。
「ガレットさん体力勝負でしょう?こういうスッキリする飲み物好まれるかなって。」
「あ~嬉しいなぁ。ありがとうガーベラちゃん。」
ガレットがそれに口をつけると冷たさと爽やかさが口の中を支配する。
メモに書かれた物を取り終えたキリンは振り向き座間にその光景が目に入り顔を真っ青にした。
「いけない!ガレットさんダメですっ!!」
「え?」
コップの中を空にしたガレットがキリンの方に振り向きざまにそのまま床に崩れ落ち、キリンが駆け寄ったのが今さっきの話。
駆け寄ったキリンがガレットの顔を確認すると、ガレットはスヤスヤと眠っていた。
「ガーベラっ!今度は何飲ませたの!!」
「ほら、ガレットさんってムキムキだけど運送業って体力いるじゃない?
元気が出るようにって試作中のエネルギードリンクを出してみたの。」
「エネルギー…?それ、毒味は?」
「まだだけど?」
「はああああ?!なんでそんな怪しいもの飲ませるのよ!」
「怪しくないわ。変なものは入れてないし。」
常連客を実験台にしたガーベラはカウンターからゆっくり出るとガレットの観察を始める。
何処からか取り出したボードの紙には薬品名【エネルギードリンク】と書かれていたが二重線で消し【睡眠薬】に書き換えられた。
「ん~エネルギードリンクにならなかったのは残念だけどこれはコレであり?」
「薬師ならちゃんとしたもの作って!
あ、でも、そういえばこの前夫のイビキが五月蝿くて寝られないって言って人がいたような…。
お医者様に売り込めば何かしら使ってくれるかな。
ガーベラ、コレの一日の生産量と使った材料の種類と量は?」
「はは~。こちらに。」
キリンはガーベラから紙を受け取るとカウンターに置いてあるペンを取り材料費やら売り込み先をメモしていく。
キリンの頭の中からは実験台にされたガレットの事は完全に消しさられ、邪魔が入らなくなったガーベラは心のままに被検体の様子を観察する。
三十分後、意識の戻ったガレットは倒れた時にぶつけた頭を撫でながら起き上がった。
「あれ?俺は一体…。」
「あ、気が付きましたか?ガレットさん急に倒れたんですよ。」
「私達の力じゃ動かせなくてすいません!疲れていたんですね!!ガーベラのお茶を飲んで寝てしまったんですよ。身体は大丈夫ですか?」
「え?あ…確かにお茶を飲んだ記憶が…いや~迷惑かけた。」
「「いいえ~。」」
ガーベラとキリンは余計な事は語らずに笑顔で対応した。
本人の許可なく実験台にしたなどと口が裂けても言えない。
「あ、御要望のお薬はコレです!サービスでクッキーも入れておきますね!」
「ああ、ありがとう。」
ガレットはキリンから薬とクッキーの入った紙袋を受け取るとカウンターにお金を置いて店のドアを開ける。
「「ありがとうございました。またお待ちしております。」」
ドアが閉まると二人はそれぞれ作業の続きに入った。
~本日の成分~
・双子の笑顔
・エネルギードリンクの皮を被った睡眠薬
・ガレットのたんこぶ
・罪悪感クッキー