第六話 オルパトス
屋敷の玄関は広々としていて、まさに豪華絢爛。最初の持ち主だった貴族の財力が目に見えてわかる。
「この絵だけでいくらするんだろう?」
アイリスが玄関脇にかけてある絵に目をとめた。
「その絵は聖魔大戦が起きた時代の画家、オースティンによって書かれた『魔境』です。」
イェルカが見てすぐに言う。
「わかるんですね。絵とかに詳しいんですか?」
アイリスが振り返って尋ねると、イェルカはうなずいた。
「両親が画商だったもので。絵については幼少からいろいろと叩き込まれてきました。」
「それにしても、もう七時だけど何も起きないね。集合場所は玄関じゃないとか?」
ふとリズベットが言った。
「そういえばあの扉の向こう確か大広間だったよ。もしかしたら大広間集合なんじゃない?」
アイリスが玄関の奥の大きな両開きの扉を指さした。
「大広間が去年の終了地点なら、今年のゲームのスタートも大広間な気がする。」
アイリスの一言に全員が顔を見合わせた。
「アイリスの言う通りだと思う。」
リズベットはそう言うと一人でスタスタと扉に近づいて行った。他の四人は慌ててついていく。リズベットは扉に手をかけると一思いに扉を開けた。
「なに、あれ。スピーカー?」
アイリスが大広間のど真ん中にポツンと置いてある機械を見て言った。一番最後に入ったルドルフが扉を閉める。その時、スピーカーから雑音が聞こえ、しばらくすると声が聞こえた。
『皆さんこんばんは。今宵はこの屋敷に集まってくださりありがとうございます。この場に来てくださったということは皆さんゲームのルールを承知してくれたということで間違いはありませんよね。』
勝手に決めつけてスピーカーから聞こえる声はどんどん話を進めていく。
『初めましてですね。まずは自己紹介からさせていただきますね。私の名前はオルパトス。今回のゲームのゲームマスターです。皆さん全員一度にいらっしゃったということは自己紹介はお済のようですね。すぐに本題に入れてとてもうれしいです。それでは、招待状に書いてあったルールはもちろんのこととして皆さんに直接おつたえしたいことが。今この屋敷は大広間の扉以外のすべての扉に鍵がかかっています。もちろん一階から二階に階段を経由していくことはできません。こちらから追加したいルールはこれ一つのみです。反対の方はいますか?まあ、いたとしてもご退場いただくまでで、ゲームは始めますけれどね。』
一度スピーカーから流れる音が止まる。まるでこちらの反応をうかがっているかのように。
『それでは、反対もないようですので謎解きゲームを始めたいと思います!制限時間は十二時まで。さあ、頑張ってください!』
それっきりスピーカーから音は聞こえなくなった。
「この声…。変声機で声を変えているね。」
ユーリが言うとリズベットはため息をつく。
「それだけ正体がばれたくないんでしょ。それに今回のスピーカーの件で少しわかったこともあるし。」
「わかったこと?」
ユーリが聞き返すとリズベットはうなずいた。
「どうして、オルパトスはこの場にいないのに私たちが大広間に来たことが分かったのかしら?」
リズベットの言葉に全員が黙り込む。
「カメラで見てたとか。」
アイリスが言うと、リズベットは首を振った。
「少なくともこの部屋にカメラは仕掛けられてない。」
「どうしてそう言えるの?」
「だって、ここから見た限りカメラはどこにもないでしょう。そんな遠くから撮っていたら入ってきたのが誰かわからない。アルカディアの人たち、話してたでしょ。男の子が一人前になれた証拠はこのお屋敷に一人で入って証拠をもって出てくることだって。つまり私たち以外にもこの屋敷に入る可能性のある人はいるってことよ。肝試しにはいる女の子もいるくらいだからそんな遠くからカメラで撮っていたら人の区別まではつかない。私たちと肝試しに来た子たちとで間違えちゃうでしょ。」
リズベットが言うとアイリスがうなる。
「じゃあ、どこから見てるのかな?」
「スピーカーにもともと声を吹き込んでおいたんでしょ。」
ユーリが尋ねた。
「それでは肝試しに来た子供たちと間違えてしまうのでは?」
「ねえ、じゃあどうやって玄関の鍵を閉めたんだろうね。」
リズベットが首を傾げた。
「それは、誰かが閉めたわけで…。」
ユーリが言う。
「おかしいでしょ。私たち以外誰もいないのなら玄関の鍵はかけられない。なのに、オルパトスによると鍵はかかっている。明らかにオルパトスは私たちが屋敷に入るのを確認した後、玄関の鍵を閉めて、大広間に誰か入ったら自動的に流れるように設定されているスピーカーを使ったんじゃないかな?」
リズベットの推理は完璧で皆黙るほかなかった。