第二話情報収集②
「こんにちは、今ちょっといいですか?」
ユーリはお土産屋さんの中に入り、のんびりと昼食をとっていた老婆に声をかけた。
「お前さん、張り紙見てないのかい。今はお昼休みだから店はやってないよ。」
老婆はゆっくりと箸を進めながら言った。
「いえ、お買物ではなくて聞きたいことがあるんですけど。お昼食べながらでも構いません。あまり時間はとらないので。」
ユーリがそう言うと老婆はしぶしぶうなずいた。
「まあ、そういうことなら仕方がない。なんだい?何が聞きたいんだい?」
「ええっと、アルカディア近郊の丘に建っているお屋敷についてなんですが。」
ユーリが言うと老婆はため息をついた。
「同じことを聞いてくる人がもう今日だけでもお前さんを含めて三人いるよ。去年もおんなじこと聞かれたしね。本当になんなんだか。」
「…去年も同じことを聞かれたんですか?詳しく教えてください。」
ユーリが興味を示すと老婆は話し始めた。
「お前さんも三年前あの屋敷で起きた忌まわしい出来事を知っているだろう?ちょうど去年のこの季節に探偵を名乗る人たちが五人くらい来てね。何があったのかと思えばその人たちは総じて三日後にあのお屋敷に行ってそのあと帰ってこなかったんだよ。」
「屋敷はそのままなんですね。何か壊れたりとかなかったんですか?」
ユーリが尋ねると老婆はブルリと身を震わせた。何かにおびえるように。
「そうだねぇ。特にと言ってなかったがね。なかなか帰ってこないものだから王都のその探偵達の事務所から連絡があってね。それで私たちもおかしいと思ってね。屋敷に王都から来た騎士様と一緒に探しに行ったんだよ。屋敷はかなり傷んでいて蔦がはっていたね。窓ガラスは特に傷ついたりしているということはなかったね。それでどこにいるのかと屋敷中を探し回ったんだよ。探偵達は屋敷の大広間にいた。あの忌まわしい出来事が起きた大広間で皆死んでいた。」
「死因は調べたのですか?」
ユーリが尋ねると老婆はうなずいた。
「騎士様がね。遺体には血痕や打撲痕などのけがはなかったんだよ。それで、もしかしたら毒かもしれないって騎士様が言い出してね。アルカディア一の名医に来てもらったんだよ。そしたらやっぱり死因は毒だってね。」
「その毒の種類とかはわかりますか?」
「いいや。私は医学には精通していないのでね。悪いのだけど医学はこの先にあるユルトリアス様が経営している病院に行ってごらん。ユルトリアス様が去年の事件の死因を調べたから。毒の種類も分かるはずだよ。」
老婆は通りの向こう側を指さす。
「ありがとうございます。」
ユーリは店を出て、通りを道なりに進んだ。少し歩くと立派な白い建物が見えてきた。看板にはユルトリアスの病院と書いてある。意を決してユーリが中に入り、ユルトリアスに会えないかと受付の人に交渉すると、案外簡単に会わせてくれた。
「ユルトリアスさん、突然すみません。お土産屋さんの人に聞いて来たのですが。」
そうきりだしたユーリにユルトリアスはニコニコと笑った。
「何を聞きに来たのかは想像がつく。去年のこの時期に起こった毒の事件について聞きに来たのだろう?」
「今日だけでも私以外に何人か聞きに来たのですか?」
ユーリが尋ねるとユルトリアスは笑った。
「ああ、そうじゃよ。お前さんで三人目だ。それで、毒の話だったかな。去年探偵達が飲まされた毒は医学に精通しているものは『グラス』と呼んでいる。お前さんたちからするとウェンディナという毒だね。」
「ウェンディナ⁉」
ユーリが驚愕する。
「そう。そのウェンディナだよ。致死量は一ミリグラム。致死量に至らなくてもかなり生死をさまよう恐ろしい毒草だよ。解毒薬はスウェンという名の薬草を煎じて飲ませるのだ。かなり苦いらしいね。ただ、解毒薬を飲ませたからと言ってきちんと治るわけではないのじゃ。何かしらの後遺症が残る。致死量に至っていなくても解毒薬を飲ませるのが遅くなれば間違いなく死ぬ。去年の探偵達の件は飲まされたウェンディナの量は0・5ミリグラムだった。致死量の半分の量だったが、我々が気付くのが遅すぎたのだ。探偵達がウェンディナを飲まされてからおよそ1週間後にやっと気づいたんだ。ウェンディナを飲まされてから2日までだったら生き残る可能性が高いが1週間となると逆に生きているほうがおかしい。…とにかくこんなところだ。」
ユルトリアスは話終えて、ユーリは瞠目する。
「ありがとうございました。また何か聞きたいことがあったら来るのでその時はよろしくお願いします。」
ユーリは笑顔で言って病院を出た。ユーリはアルカディアの中心にある大時計の時間を見る。大体午後4時半だ。
「そろそろ戻るか…。」
ユーリはもと来た道を戻って行った。