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死の旋律  作者: ユナユナ
2/9

第一話情報収集①

アルカディアからほど近い丘の上に大きな屋敷が見える。アルカディアに入る検問で順番を待っていたユーリは丘の上の屋敷を見て感嘆した。

「次の人どうぞ。」

衛兵に呼ばれたユーリは衛兵のもとに足を進める。

「こんにちは、何か身分証明となるものはお持ちですか?」

衛兵はニコニコと尋ねる。妙な人だなと思いながら、ユーリは懐から身分証明書を取り出した。

「これでいいですか?」

「ええと、お名前はユーリ・イルドネスさん。職業は…探偵ですか。最近探偵さんの出入りが多いですね。あなたで四人目ですよ。この町で何かあったのかと不安になりますよ。」

衛兵はつぶやくように言う。

「私のほかにも探偵が三人いると?」

思わずユーリが尋ねると衛兵は不安そうに言った。

「今までこんなことなかったんですけどね。今日だけでも四人です。」

「つまり今日のうちに私を含めた四人の探偵がアルカディアに来たと?」

ユーリのつぶやきを漏らさず耳に入れた衛兵は尋ねた。

「何かあったんですかね?ここだけの話、やっぱあのお屋敷が関係してるんですかねぇ。一年前もおんなじことありましたしね。」

「おんなじこと?」

聞き返したユーリに衛兵はうなずいた。

「はい。一年前もこんな感じで一日で五人の探偵がアルカディアに来たんですよ。本人曰くただの休暇ですって言ってたんですけどね。」

ユーリは門を抜けてアルカディア内に入った。この都市に自分を含めて四人も探偵がいるということは、皆自分と同じことを考えているのだなとユーリは内心思った。とにかく残り三日間はあのお屋敷の情報収集を祖なくてはならない。ユーリは都市で一番大きい宿屋に入った。

「いらっしゃい。」

ふくよかな女の人が宿屋の受付に立っている。

「お兄さん、泊ってくかい?それともお食事かい?」

女の人はニコニコと笑いながらユーリに声をかけた。

「泊っていきます。三泊食事付きでお願いします。」

ユーリは懐からお金の入った巾着袋を取り出した。

「三泊食事付きね。銀貨十枚だよ。」

女の人はお金を入れるトレーをユーリの前に置いた。ユーリは巾着袋をあけて銀貨を十枚取り出し、トレーに置いた。

「銀貨十枚ピッタリだね。」

女の人は銀貨を巾着袋にしまうと、後ろの壁にかかっている鍵のうちの一つを取ってユーリに渡した。

「お兄さんの部屋は二階の一番奥だよ。」

「ありがとうございます。」

お礼を言って二階に行こうとしたユーリに女の人は声をかけた。

「お兄さん、王都から来たのかい?」

「はい、そうですが、それがどうしたのですか?」

ユーリが不思議そうに振り返ると、ちょうど宿屋に銀髪の女の子が入ってきた。

「あれ、お嬢さんもここに泊まりたいのかい?」

女の人は尋ねた。

「はい。」

女の子はこくりとうなずいた。女の人は女の子とユーリを見比べた後、申し訳なさげに行った。

「お兄さんの部屋二人部屋だからこの子も同じ部屋じゃ駄目かい?」

「もしかして私で最後の部屋だとか?」

ユーリが尋ねると女の人はうなずいた。

「そうなんだよ。もう今日だけでいっきに満室だよ。それもみんな王都からのお客さん。一体何があったんだろうね。」

女の人は物憂げにため息をついた。

「わかりました。ええと君は何泊するのかな?」

ユーリはうなずくと、女の子を見て言った。

「三泊食事付き。」

女の子は短く答えた。

「じゃあ、銀貨十枚だね。」

女の人はトレーを出す。

「ん。」

女の子は手に握りしめていた銀貨十枚をトレーに置いた。

「ピッタリね。じゃあもうお兄さんのほうに鍵は渡してあるからそれで入ってね。」

ユーリと女の子は一緒に二階に上がって部屋に入った。

「そうだ、君の名前は?」

部屋に入ったユーリは振り返って尋ねる。部屋の扉を閉めた後、女の子は短く答えた。

「リズベット・シェリー。お兄さんは?」

「私の名前はユーリ・イルドネス。なんの用事でここに来たの?王都から来たんだよね?」

ユーリがソファに座るとリズベットは向かいのソファに座った。

「ユーリさんも同じでしょ?変な招待状もらってここまで来たって感じ。」

「じゃあ、リズベットも同じってこと。あのお屋敷の謎を解くゲームをさせられるっていう。」

ユーリが驚き半分で言うと、リズベットは淡々と言う。

「ユーリさんも早めに来て情報収集しようと思ってたんでしょ。」

リズベットは持っていた鞄の中から招待状を出した。

「ユーリさんのもみせて。もしかしたら書いてること違うかもしれないから。それに互いの情報を見せ合うのは今回のゲームでは必須のこと。ゲームの前哨戦だと思わなくちゃ。」

「そうだね。」

ユーリは苦笑しながらポケットの中から招待状を出し、リズベットに渡した。リズベットは自分の招待状と見比べた。

「違うところは名前の部分だけ。他は全部一緒。」

「活字も?」

ユーリが尋ねるとリズベットはうなずいた。

「同じユヴィデント王国の活字。内容は全く同じだけど一つだけ。この紙の質とインクの質について。なんかおかしいとは思わない?」

リズベットはユーリに二通の招待状を渡す。

「紙の質とインクの質ね。」

ユーリはまじまじと二通の招待状を見て、触る。

「確かに、紙は上質なものだね。平民では、いや、貴族でも滅多には使わない高級紙だね。インクは、もう四日経ってるのに色の変色すらしていない。このインクもまた高級なものだね。」

「そう。一応王都を出る前に軽く調べてきたの。この高級紙はそう簡単には手に入らない。専用で取り扱っている店は王都にしかないから。それで店の人にここ一か月で誰か高級紙を五枚くらい買いに来た人はいないかって聞いたの。そしたら二人だけ、貴族の名前が挙がってきたの。」

リズベットが言う。

「その二人って?」

ユーリが尋ねるとリズベットはめんどくさそうに言った。

「ユリウス・バーテイン侯爵とヴィオナ・トールバーグ女伯爵。どっちも五枚づつ買っていたそうよ。次にインクの件だけど、インクのお店は王都にしかないってわけじゃないからそこらへんはまだわかってない。」

「怪しいのはユリウス・バーテイン侯爵閣下とヴィオナ・トールバーグ女伯爵の二人…か。」

ユーリが黙り込むと、リズベットが言った。

「で?そっちは何かつかんだの?」

「特にこれといったことは…。あ、でも、ひとつだけ。アルカディアの衛兵に聞いた話なんだけど、去年も同じ時期に探偵が集まってきたことがあったって。」

ユーリが言うとリズベットは考え込む。

「ということは、これが初めてではないっていうこと。ゲームのルールが本当なら去年参加した探偵達は皆死んでいることになる。でも、そういう話を聞いたことはない。ユーリさんも聞いたことないでしょ?」

「もちろん。」

ユーリがうなずくと、リズベットは大きく伸びをした。

「とにかくこんなところで縮こまっているのはよくないと思うの。せっかく三日も早く来たのだから情報収集しましょう。」

「そうだね。どこから回る?」

ユーリが重い腰を上げると、リズベットは呆れたように言う。

「ねえ、やる気あるの?自分の命かかってんのよ。」

「ごめんごめん。」

ユーリは軽く謝る。

「…で、回る順番だけど二手に別れるのがいいと思うの。その方が情報収集の速さも上がるし、後で情報をまとめる時間もとれるでしょう。」

「そうだね。」

リズベットの提案にユーリはうなずいた。

「じゃあ、とりあえずユーリさんは衛兵から聞いたことを中心に聞いて回ってくれる?あとは、他にも屋敷のことを聞きに来た人がいないか聞いてみて。私はあの屋敷について聞いて回るから。」

リズベットが言うとユーリはうなずいた。

「集合は午後5時にこの部屋で。もし偶然私たちみたいにあのお屋敷について情報収集している人を見かけたら説得して連れてきてくれる?情報は多いことにこしたことはないからね。」

「了解!」

ユーリとリズベットはお昼時のアルカディアへと繰り出していった。





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