序章
当たり前な日常の始まり
「この子は異常だ。母体が死んでしまうぞ。」
「こんなの初めてだ。報告書を適当に書き換えておけ。とにかく出してしまえ。」
西暦2115年。22世紀に入ってから人口は減少し、コンピューター制御技術で多くのことが人間の手から離れた。
人間はAIとの仕事の取り合いを30年ほど経験したあと、一つの結論に辿り着いた。
”AIがやってくれるなら別に良いじゃないか”
その結論の後、AIにより生活に困窮する要素がなくなった人間が実行しているのは「闘争」と「研究」という相反する二つの行動のみ。歪で美しい世界が始まった。
「闘争」はリアルだけでは無くデジタルの世界でも行われている。21世紀に893やマフィアと呼ばれた存在はリアルでの「闘争」を取り仕切り、人間とは思えない動きを可能にする傭兵を遺伝子レベルで製造していた。
デジタルでは、世界に1社になったマシンメーカーが製造した統一PCを各人が入手し、自力でコンバートする。デジタルの命は貨幣として換算され、死ねば財産が無くなる。0になった時のみAIが干渉し再構成の対象となる。
「ポイントα。配置についた。
893のゴミを殺してやる。トーカ行ける?
OK♪任せろ。なら交代だ。」
レンズの先に見える殺風景な暗い部屋に、蛍のような光がチラチラと見える。
世紀が変わっても俺たちのやる事は変わらない。火種を作って、奪って脅す。今月もちょろい仕事だったな。デジタルしかやってない奴らを後ろから殴れば金が降ってくる世の中だ。
「闘争」だと言えば今は大した罪に問われることもない。AI様様だよな。
バシっ
「OK」
「暗い!なんだ!停電か?!」
ダンッダンッダンダンダン
「サヤ終わったよ。あとはお願い。
了解。」
集合住宅の一室に集まっていた5人の893の死体と一人の少女が立っていた。返り血にまみれた横顔に、ヘタクソに改造された統一PCからの光が死神の髑髏のような模様を描き、ただただ青く光っている。
「このクソみたいなPCであいつらやってたのか。トーカのやつディスプレイに血が飛んでんじゃん。見えにくいからやめてくれっていっつも言ってんのに。殴ってやりたい。できないけど。とりあえず、これ持って帰るか。」
カチッタタタタタタタタ・・・・
Hello
あなたの研究テーマの進捗は32%です。余命に対して進捗が遅れています。
「うるせぇ」
システムメッセージ、Login開始。研究を読み込み中。
・・・・・・ビジュアル構成確認。パークへの投射を完了。研究テーマの情報クロールを開始。
テーマ:ヒストリー
脳内ライブラリーの合成を実施。進捗率33%の上昇。データグラトニーにより、デジタル闘争への参画を推奨。資産コードAAXXXXX。
「ふぅ。研究を進めないとな。。。あっヤッホー、トーカ。研究の進捗をAIがぐだぐだ言ってるよ。壊してやりたい。」
「次のターゲットはもう見つけてるから大丈夫。雑魚doubleとnormalしかいなかった前回とは少しレベル上がるから、少しだけ気をつけようね。カイトとリアンが絡むらしいからめんどくさいかも。」
「もうめんどくさい。寝る。Logout実行。」
何も無い四角い部屋で少女が一人。統一PCが音を出しながら光を放つ。窓の外には中国語と英語の入り混じった看板のネオンが揚々と輝き、ゴミのように横たわる人間とゴミ一つない管理された通りが良いコントラストを奏でている。