表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

健太さん

「入って」


僕はホテルの部屋に入った。立派な部屋だった。

男はベッドに座っていた。

足もとに灰皿があり、何本もの煙草の吸いがらがあった。

僕は何となく、男の隣に座った。


男は思いつめた顔で煙草を吸っていた。僕は何となく、男の背中をさすってあげた。


「俺、どうしたらいいんだろう?」

「えっ?」

「ママさんに言われて、君と会うことにしたけど、どうしたらいいのか分からなくて・・・」

「ぼ、僕も、煙草もらってもいいですか?」


僕は煙草を吸い、急いで考えた。

僕にとっても、こんな経験は無く、どうしたらいいのか分からなかったが、リードをしないといけないのだ。


「あの・・・お名前を教えてもらってもいいですか?僕は田崎学です。源氏名ではありません。本名です」

「学くん・・・俺は健太、須藤健太・・・」

「健太さん・・・」

「学、良い名前だね・・・」

僕の心は痛んだ。


「良い名前ですか?・・・僕、自分の名前、嫌いなんです・・・サトルかシュンスケが良かった・・・」

「そんな名前より、学の方がずっと良いよ」


僕と健太さんは顔を見合わせた。健太さんはゆっくりのペースだが、話し出した。

「この前、兄ちゃんと篠原先生と銀座のお店に行ったんだけど、先生が不機嫌になることがあって、アヴァロンに行ったんだ。その時、君は先生の煙草を買いに行って、俺にも何か買ってこようかと聞いてくれたね」

僕はうなずいた。僕はリンくんに苺ポッキーを買ってきてくれと言われたことの方が心に残っていたけど。


「僕・・・すごく気をつかうんです・・・アヴァロンの他に床屋の仕事もやってて・・・僕は口下手だから、せめてサーヴィスだけは頑張ろうと思って」

「床屋さんもやってるんだ。歳はいくつ?」

「二十歳です」

「じゃあ、この前、成人式?」

「成人式の時は店が忙しいので、行ってないです」

それは、嘘だった。もし、行く余裕があっても、行かなかっただろう。

健太さんは話を少し戻した。

「初めて学を見かけて、気になって、一人でアヴァロンに行ったら、ママさんに今日のことを言われたんだ。すごくいい子だから、絶対大丈夫って」


健太さんの手がスッと僕の顔に伸びた。


「学の顔をよく見せて」

僕はたじろいだ。

「僕のブサイクな顔なんか見ないで・・・」

「いや!!学はブサイクなんかじゃないよ!!」


健太さんは僕を抱きしめた。空気が変わった。


僕は少し涙を流した。


「健太さん、僕は体も心も立場も弱くて、健太さんを満足させられるか分からないけど、好きにして下さい・・・」


健太さんの指先は震えていたが、僕の服を一つずつ脱がせて行った。そして、ついに健太さんの指は僕の下着にかかった。僕は涙ぐみつつ、うなずいた。僕が裸になると、健太さんも荒々しく背広を脱いて行った。僕は緊張で弱っていたが、健太さんは力強くなっていた。


僕は一つだけ健太さんに願った。


「健太さん、シャワーで良いから、お風呂」

「うん」

健太さんに抱き寄せられ、僕は浴室に入った。要領が分からないながら、僕は健太さんの体を洗った。

健太さんが顔を寄せてきた。僕たちはキスした。僕は半泣きで、健太さんに言った。


「健太さん、僕、マンガのように出来ません。口を使ってでも許してくれますか?」

「十分いいよ」


僕は健太さんの熱を口にふくんだ。

そこまでのシチュエーションが健太さんを敏感にさせていたのか、健太さんは意外とあっけなく達した。

僕はまた健太さんの体を洗った。

健太さんは意外と淡白なのか、本当に十分、満足したようで、僕たちはベッドに二人で戻った。そして、僕たちはかたまりあって、眠った。

「健太さんは体格が良いですね。何かスポーツをされていたのですか?」

「ラグビーをやっていたけど、上手ではないよ」


僕は若者の中では貧弱な体格だと思う。

僕は健太さんに包まれて眠った。

それは不思議とそんなに嫌な気持ちでは無かった。


翌朝、僕が目覚めると、健太さんは起きて、びしっと背広を着ていた。


「学、疲れているんだね。ここは12時までだから、もっと寝ていても良いよ」

「いえ、今日、遅番だけど、理髪店もアヴァロンも行かないといけないので、起きます」


その時、健太さんは財布の中から一万円札を三枚取り出した。

「少ないし、包みもないけど、ごめんね」

「少なくないです!!」

「今日、土曜日だけど、会社の用事あるから先に行くね。来月、またママさんに連絡するから」

僕は茫然としながら、健太さんを見送った。


ベッドの中で、ミサオさんと新ちゃんに「大丈夫でした」「大丈夫だった」とラインを送った。


ホテルの部屋はカードキーだった。僕はシャワーを浴びると部屋を出た。

レストランをのぞいたが、バイキング2100円、ちょっとしたパンとゆで卵などが1250円など、僕はそそくさと立ち去った。

そして、○○大学前駅の喫茶店で、パンとゆで卵とカフェラテの朝食をとった。

学生街を歩いて、ぶらぶらしていたら、新ちゃんからラインが来た。


「まーちゃん、今日、ショーやることになったから、夜、手伝ってね」「団体が二組来るらしい」


僕は午後に理髪店に出勤した。また、オーサカくんと一緒になった。

僕はドキッとした。

「まーちゃん・・・やらしいなぁ。昨日と同じ服やなんて、朝帰りやん」

オーサカくんは勉強が出来ると言うタイプでは無かったが、勘が鋭かった。

「いや、昨日、お店の終わるのが遅れて、新ちゃんの所に泊まっただけ」


僕は逆に聞いてみた。


「僕、昨日とどこか違って見える?」


オーサカくんは目を丸くして、僕を見た。


「え?何か違う?」

「う、ううん、別に・・・」

僕も勉強は苦手だったが、図書館でよく小説を読んでいた。そして、巨匠隆慶一郎の本で、「人は初体験をすると、傍から見ても分かるぐらい変わる」と書いてあったが、そうでもないことを知った。


成人式の後だが、客足は多かった。学生だけでなく、年配の人も多かった。

僕は黙々と仕事をしていた。

そうしたら、終わりがけにチーフに呼ばれた。


僕のお店には、チーフ、マネージャー、先生、店長と言う人がいたが、四人の力関係や人間関係は僕にはよく分からなかった。

四人は必ず誰か一人は店にいた。チーフは比較相対的には僕に目をかけてくれている人だった。


「学、今日も頑張ってたね。でも、口が全然動いてないよ。サーヴィス業だから、お客様を楽しませることも頑張って」


僕は少し目を伏せ、うなずいた。僕はお世辞にも明るくないと思う。暗い。だから、手先の技術では他の子に負けなくても、指名も無かった。下手をすると、僕が髪を切っている横で、山鹿くんがお客さんに話しかけていることもあった。


「なかなか性格は変えられないけど、頑張ってね」


僕は小さい声で、「はい」と答えた。

チーフが意地悪で言っている訳ではないことは分かっていたが、こたえた。つらかった。

更衣室で制服の上着を脱いだときに、オーサカくんに話しかけられた。

「まーちゃんも言われた?しゃべりのこと」

「あ、うん」

「俺も・・・でも、しゃべり難しいやんね。まーちゃんの飲食のバイトの友達、めっちゃ、お話上手やったね」


その時、ピロンとラインが鳴った。

上手の新ちゃんからだった。


「ヘルプ。ASAP」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ