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D.P.  作者: 飛竜 翔
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愛すべき日常

 古守 裕(こもり ゆう)は平凡だ。

 勉強も運動も世間一般の定義において上過ぎもせず下過ぎもせず平凡だ。

 むしろ平凡を愛していると言っても過言では無い。

 非凡な友人達みたいになりたいとは思わない。

 物語の中のスーパーマンや天才やお金持ちになりたいとは思わない。

 そんな物は友人で間に合っている。

 血湧き肉躍る人生なんていらない。

 ただ、平穏な生活が出来て、周りの波瀾万丈な光景を心穏やかに鑑賞出来ればそれでいい。

 今までもそうだった、そしてこれからもそうだろうと思っていた、さっきまでは。

 「ありえん」

 思わず僕は独り言をこぼした。

 そう有り得ない事態が起こったのである。

 僕の頭の中は「全く意味が分からない」の言葉で埋め尽くされている。

 どうしてこうなった?

 先ほど小学校と中学校を過ごした寮を突然追い出された。

 かといって住所不定になった訳では無く両親が近所に家を買ったらしいので、そちらに住めと言う事らしい。

 寮母の伊那莉(いなり)さんから、さっき一方的に地図と鍵を突きつけられた。

 そろそろ桜が咲こうかという時期の昼過ぎなので寒くも無く暑くもなく地図の場所に行くことに関しては特に困っていない。

 その辺に植わっている桜のつぼみの様子を見ながら歩いていると目的の家に着いた。

 両親は少し感性がズレているので前衛的な家だったら見なかった事にして土下座して寮に戻して貰おうと思っていたが杞憂に終わった。

 特に特筆するところのない普通の二階建ての家だった。

 生け垣の向こうには少しの庭がある。

 両親と顔を合わせるのに少し気合いを入れる。

 両親が苦手な訳では無いが異様にテンションが高いので心の準備が必要だった。

 何があっても動じない心を持ってインターホンを押してみた。

 「…」

 返事が無い。

 もう一回押してみた。

 「…」

 やっぱり返事がない。

 落ち着け、落ち着け僕。

 さっき何があっても動じない心を持ったはずだ。

 新築だし、必要な物を買い出しに行っているだけかもしれないじゃないか、幸いここに鍵がある、これで入って中で待っていれば万事解決じゃないか。

 さっそく鍵を使って扉を開けてみた。

 今まで寮に住んでいたので家の鍵を開けるというのは初めてかもしれないのでテンションが上がる。

 もちろん学校の部屋の戸締まりとかはしたことはあった。

 上がったテンションの勢いで扉を開けて中に入った。

 大きめの靴箱があり式台には玄関マットが敷いてありスリッパが置いてある。

 「すみませーん」

 もしかしたら他人の家の可能性もあるので声をかけてみるが反応が無い。

 両親以外に出会ったら土下座して見逃して貰おうと心に誓ってスリッパを履いて中に入った。

 玄関を入って廊下を歩くと左に部屋と右側にトイレらしき扉と奥に浴室と思われる扉があったが、つきあたりにリビングがありそうだったのでそっちに行ってみるとキッチンとリビングを兼ねたダイニングがあって机の上に手紙らしく物が置いてあった。

 触らないように封筒を見てみると「裕ちゃんへ」と書いてある。

 たまに手紙を送ってきていた母さんの字だった。

 「よし!土下座は免れた」と安心して心の中でガッツポーズを決めた後に事の経緯でも書いてあるのだろうと手紙を読んでみる。

 「ちょっ!」

 思わず突っ込んでしまった。

 誰もいないのに恥ずかしい。

 手紙の内容は僕と一緒に暮らそうと思って家を買ったけれど急に大きな仕事が入ってしまったので無理になったという内容だった。

 最後に「しばらくそこに住んでいてね」と書いてあった。

 文章の最後に書いてあるハートマークが神経を逆なでした。

 事情を話して寮に戻して貰おうかと思ったけれど、この春の高校進学を機に一人暮らしを始めても良いのではないかと考えて「まっいいか」と自分自身に言い聞かせるように呟いた。

 ここで少し自分語りをしよう。

 僕は小学生の頃から寮に入っていてそこから学校に通っている。

 ここには結構な数の学校が集中していて特に学校と寮が紐付いている訳ではなく、有り体に言えば寮母さんのところに下宿している感じだ。

 小学校の時に転校してきてからはずっとそこにいた。

 そこの寮母さんの伊那莉さんは育ての母と言っても過言では無い。

 因みに小学校に転校してくるまでの記憶が一切無い。

 幼い時の記憶なんて大なり小なり無い物なのでたいして気にしてはいない。

 幼い頃から寮に預けられていたからといって両親に捨てられたという訳でもないらしい。

 今回はこんな事になっているが学校の行事や誕生日とか事あるごとに必要以上に顔を出していた両親からはネガティブな要素は考えつかない。

 僕の事を気にして、この家の事も考えてくれたのだろうし有り難い事だと思う。

 預けられていたのもきっと今回の事みたいに仕事が忙しかったという話だと思えば合点がいく。

 とりあえず家の中も見てみようと探検気分で見てみる。

 一階には少し広めの洋室と畳の和室、それとは別にダイニングリビングとキッチンあとトイレと洗面所とお風呂があった。

 個人の部屋が無さそうだったので二階に上がったら四つ扉があり手前の右側の扉に「裕の部屋」とプレートがかかっていた。

 名前が書いてあるので大丈夫だと思って部屋に入ってみると、窓辺に机と椅子とその横にベッドとサイドテーブル一式がちゃんと揃っていてベッドメイクもしてあった。

 伊那莉さんが「荷物は明日着くよう送ってあげる」って言っていたので今日一日過ごす分にはなんとかなるだろう。

 元々寮生活だし中学の時の教材は整理してあるから問題はないだろう。

 父さんや母さん達が居ないと分かったら気が抜けた。

 緊張した力を返せ。

 目に映るなんかスプリングの効いていそうなベッド。

 ここはするしかないのか?

 誰もいない。

 やるならイマノウチ!

 僕はベッドにダイブした。

 そして、想像以上に反発したマットに投げ飛ばされてベッドのヘッドボードに頭を強打して意識を失った。

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