プロローグ
腰まである蒼みがかった黒髪を三つ編みにした少女がマンションの屋上に狙撃兵のように寝転がっている。
双眼鏡を持ちインカムをつけ、しばらく学校の寮を観察していると寮の中から少年が出てきた。
いきなり目を見開いたかと思うと足をバタバタさせながらアクセルべた踏みでテンションをあげてはしゃぐ。
「零巫ちゃん、来ましたよ!来ました!裕様です。動いています!本物です!」
インカムからは同じく高揚した声だが若干落ち着いた声で返答がある。
「玖遠ちゃん落ち着いて、今日は観察だけ。会うのは明日なのですよ」
玖遠は「ああ~何年待ったことでしょう、明日が待ち遠しい」と本当に待ちきれない様子でクネクネと動き出した。
いきなり屋上の出入り口が開け放たれて警察官が出てくる。
「自殺しようとしているのは君か!」
玖遠は「しまった、見つかった」という顔をしたが寝転がっていたのですぐに立ち上がれない。
腕をつかまれ「さあ、お嬢さんこっちに来るんだ」と引き上げられる。
「ちっ違うんです!誤解です!」と暴れる玖遠。
しかし警察官に腕をつかまれ起き上がらされたその勢いで引きずられてゆく。
「零巫ちゃん~到着確認はお願いします~」という言葉を最後にマンションの中に消えていった。
暴れて落ちたインカムから「あ~、了解」と呆れた声で零巫から返事があったが誰も聞く者はいなかった。