慰謝料について
さて、わたくしが婚約破棄をされてから半年が経ちましたけれども、スーリャ様とライト様の婚約は認められておりません。
むしろ、王家全員に反対されているという状態です。
それはそうでしょう、第三王子という立場でしかないライト様に、高額な品物を強請り、我が物顔で王宮に出入りしようとしているのですもの。
わたくしの方も、スーリャ様がわたくしから行われていたという根拠のない虚言に対する証拠も、しっかりと集まりましたし、王宮の方でもライト様の使い込みの証拠固めが進んでいるようです。
わたくしとの婚約破棄による慰謝料も実はまだ支払われていないのですが、ライト様はわたくしに責任があるのだから、むしろわたくしが慰謝料を払うべきだと未だに主張していらっしゃいます。
どう考えても浮気をなさったのはライト様なのは明らかなので、一時的に国王陛下が立て替えてくださるという話でまとまりかけております。
わたくしはそれで構わないのですが、国王陛下としては苦渋の決断だったでしょうね。
戦争こそ起きておりませんが、昨年に起きた天災のせいで農作物に大きな影響を受け、近隣諸国から食糧の輸入をしている時期ですので、出来れば余計な出費は抑えたいはずです。
レヴィ様がこの国にいらっしゃったのもその輸入に関してになっております。
レヴィ様は大使館にお住まいでいらっしゃいまして、王宮にほど近い場所ではあるのですが、王宮に滞在しているわけではありませんので、そこまで王宮の内情に精通しているわけではないのですが、それでもライト様の立場が王宮内で悪くなっていることはご存じのようです。
世話役としてレヴィ様がそのような事を気にかけるのは大変心苦しいのですが、レヴィ様もお仕事でこちらにいらっしゃっておりますので、多少なりともこの国の内情を知る必要がございますよね。
「イカル様」
「まあ、宰相様。ごきげんよう」
「今日は王宮にどのようなご用件でいらしたのですか?」
「ご存じありませんの? 王妃様にお茶会にお招きいただきましたのよ」
「ああ、そうでしたね。楽しんでいらしてください」
「ありがとうございます。宰相様も大変な時期でしょうけれども、お体にお気をつけくださいね」
「どうもありがとうございます」
宰相様と別れて王妃様の待つサンルームに向かいます。
王妃様が個人的にわたくしとお茶会をしたいとおっしゃったのは、恐らくライト様の事なのですが、始めのうちは静観していた王妃様も、最近のライト様の行動には頭を痛めているらしく、わたくしをお呼びになったのはそのご相談でしょう。
とはいえ、わたくしは被害者ですので相談されても困るのですけどね。
現在の王妃様は国王陛下の三番目の王妃様になりまして、その前のお二人は疫病が蔓延した際にお亡くなりになってしまいました。
よって、ライト様のお母様ではありません。
優秀な方なのですが、ご自分と国王陛下の間に生まれたお子様がまだお小さい事もございまして、王宮内の様々な事を全て把握しきれているわけではないのです。
第一王子、第二王子のお母様は第一王妃様でしたが、ライト様は第二王妃様のお子様です。
外交の関係上、王妃が居ないと問題が多い事が多いので、国王陛下は年の離れた現在の王妃様を娶りましたが、お子様に関してはあまり期待されておりませんでした。
サンルームに着きますと、既に王妃様はいらっしゃっておりましたので礼をしてから入って用意された席に座りました。
「今日は急なお茶会にお誘いしてしまってごめんなさいね」
「構いませんわ。王妃様のご招待とあれば他の何を差し置いてでも来る価値がございますもの」
「そう言ってもらえると助かります。難しい話をする前に、美味しいお茶とお菓子を召し上がって」
勧められるままにお茶とお菓子を頂き、最近の流行の話や、学園での話題に花を咲かせておりましたが、お茶菓子がいったんなくなり、メイドがお代わりを用意するために下がりますと、王妃様はコホン、と咳払いをしてわたくしを真剣な目で見ていらっしゃいます。
「今日、お茶会にイカル様をお招きしたのは他でもありません、ライト王子に関することです」
「そうだと思っておりました。遠慮なくおっしゃってください」
「では率直に言いますが。婚約破棄の慰謝料の支払いを待って欲しいのです」
あらまあ、そう来ましたか。
これは流石に予想していませんでしたね。
「貴女も知っている通り、現在の我が国は財政的に余裕があるとは言えません。その上、臨時的に予算を組んだお金にまでライト王子が手を出してしまい、正直首が回らないのです」
「臨時予算にまで手を出していたのですか」
「ええ、おととい判明したのですが、臨時予算には第一王子と第二王子の婚約者へ充てる費用も一時的に組み込まれていました。それだというのにライト王子は……」
「お察しいたします。わたくしの方は、そうですわね……三年以内にお支払いくだされば構いませんわ」
「そうですか、ありがとうございます。婚約破棄の事だけでも迷惑をかけているというのに、慰謝料の支払いの延期など、本当に王家にとって恥ずかしい事ばかりです」
王妃様もこのような事を伝える係に抜擢されてしまい、お気の毒ですね。
けれども、この慰謝料の延期はわたくしにとっては逆に好都合かもしれません。
慰謝料を頂いて終わらせるつもりは始めからありませんでしたが、ライト様とスーリャ様を追い詰めるいいネタになりますね。