予算には限度額がありますよ
「スーリャはお前と違って、儚げで優しく、俺が守ってやらなければいけない存在なんだ。だからいい加減、俺達に構うのをやめろ!」
「そのような覚えは一切ございませんが?」
むしろ絡んでくるのはそちらなのでは?
スーリャ様はわたくしの事を事ある毎に悪役に仕立て上げたいのか、何かあるたびにわたくしにひどい事をされた、わたくしと比べられて恥をかかされたなどとおっしゃっているようです。
正直、迷惑行為も甚だしいのですが、不敬罪で訴えたところで、ライト様がわたくしに対して今のように喧嘩腰に文句を言ってくるのですよね。
まったく、構うなとおっしゃるのでしたら、スーリャ様にわたくしの事など気にせずに生きればいいとおっしゃればよろしいのに、それも出来ずに文句を言いに来るだけなんて、随分と立派な事ですね。
そもそも、儚げな方は高位の子息に秋波を送るような真似をするとは思えないのですが、その事についてはどう思っているのでしょうか?
「スーリャ様が本当にライト様のおっしゃる通りの御方なら、物を強請るような真似をなさらないと思うのですが?」
「それは貴族になって色々と物入りなんだ。俺の婚約者になるんだぞ、みすぼらしい格好をさせるわけにはいかないだろう!」
「然様ですか」
何を言っても無駄そうですね。
「ライト様、こんな所に居たんですね。探してたんですよ。ライト様が傍にいてくれないと、あたし、他の令嬢からいじめられてしまって……」
「可哀想に」
「イカル様が皆様に指示してるんです」
「なんだと! イカル、お前というやつは何処まで最低なんだ!」
「これっぽっちも覚えがありませんが、そんなに心配なのでしたら四六時中一緒に居ればよろしいのではありませんか?」
ため息交じりにそう言うと、ライト様はそれは名案だと言わんばかりに頷きましたが、スーリャ様が「ライト様に負担をかけたくありません」と断っていらっしゃいます。
何か一緒に居たくない理由でもあるのでしょうか?
二人は愛し合っているのですから、今は四六時中一緒に居たいと思ってもおかしくはないと思うのですが、不思議ですね。
何か理由でもあるのでしょうか?
「スーリャ様はライト様と一緒に居たくはないのですか?」
「そんなわけないでしょう! でも、あたしの都合でライト様を振り回すなんて、そんな真似できるわけがないでしょう! あたしはイカル様とは違うんですよ!」
「わたくしは、ライト様を振り回した覚えはありませんわよ?」
「嘘です! イカル様は自分の思ったようにライト様を操っていました。ライト様の都合も考えずに!」
「あら、そうでしたの?」
「スーリャがそう言うんだ、そうに決まっているだろう。実際、お前との婚約を破棄してからと言うもの、俺は自由だ!」
「自由ですか」
それは金銭面的な話なのでしょうか?
だとしたら大きな間違いなのですが、気づいていらっしゃらないようですね。
確かに、王子として婚約者に使う費用を割り当てられる事はありますが、現在スーリャ様は婚約者ではありませんので、婚約者用の資金を使う事は横領になるのですが、将来的に婚約者になるからという理由で使っていいお金ではないのですよね。
そもそも、話に聞く限り、相当貢いでいらっしゃるようですし、そんなに予算はないと思うのですが、大丈夫なのでしょうか?
大前提として、公爵令嬢のわたくしは自分の物は自分で用意するという事で予算が組まれておりますので、第一王子や第二王子と比べるとそれこそ桁が変わってくるはずなのですよね。
まあ、それでも子爵家の年収から考えれば十分な予算だとは思いますけれども、お話によるともうすでに年間費を超えそうだとも言いますし、計算できておりますよね?
もし予算をオーバーしてしまえば、出世払いという形になっていずれ自分に返ってくるのですけれども、本当に大丈夫ですよね?
この調子で使って行けば、スーリャ様のご実家では賄いきれないほどの出費となりますけれども、ちゃんとわかっておりますよね?
もはや他人事になってしまっておりますけれども、国に対して税金を払っている側としてはその使用方法に不安を覚えずにはいられませんね。