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名浪狩りの異世界侵入  作者: 山西郷授
1/1

01 名浪狩り、ルキウス

ご閲覧いただき誠にありがとうございます。

こちらの作品は、某死に覚えARPGの世界観に、いわゆる「なろう系」の雰囲気を持ち込んだらどうなるのだろうというくだらない妄想から執筆させていただいたものです。

稚拙で読みにくい表現が多々あるとは思いますが、よろしければ読者様方にお楽しみ頂けるのならば、大変身に余る幸福であります。

 ――その日、俺は【名浪狩り】となった。




 怠惰に進む日々。

 友人も居なければ彼女も居ない俺、伊勢太郎にとって高校とは正しく悪夢そのものであった。

 もう通い始めて二年は経つのに、何一つ楽しい事なんて無く、あるのは陽気な奴らに陰でいびられながら時間を浪費するだけの無間地獄。

 教室に入れば四六時中寝たふりをしながら、ただただ一日を耐え凌ぐ。

 そんな事しか出来ない自分に唇をかみしめながら、だが終わりのないようなこの状況をひたすらに待つことしかできない。

 

 ああ、また始まる。

 思えば思う程重くなる身体に無理やり鞭打ちながら、寝床から這いずり出て、よれた制服を着込んで、今日も漂々と表へ出た。

 そして、今日もつまらない日常を過ごす――はずだった。


 午前八時半も回ろうとするところ。都心近くの最寄り駅はこの時間になれば、まるで群がるアリが如くにスーツを着た社会人たちが死んだ目で行き交う。いつもなら、そうであるはずだった。

 だが今日は騒然と、皆線路の方へ釘付けになっていた。


「……お、おい! あれ!」


 ある者は指を差し、ある者はスマホを耳に当てたりして、その刹那の時を見ていた。

 人々の関心は、広い駅の構内で悠然と宙を舞う一つの身体に向けられていた。

 そう、この俺に。


 何故だろうか。時の流れが途端にゆっくりと、鈍く流れているように感じられる。

 眼前に迫る列車の車掌と目が合った。彼は大きく見開きながらも、必死に何かのレバーを後ろに下げようとしている。

 だが、もう遅いさ。俺はもう、轢かれてしまったのだから。

 

 走馬燈というやつだろうか。今までのしょうもない人生の一場面ずつが、眼前に重なって現れ出てくる。

 小さい頃、地元のガキ大将にゲームソフトをパクられた挙句、そいつにぼこぼこにぶん殴られた事。

 小学生の終わり頃、妹は一端に私立中学受験専門の塾に入れたくせに、俺は出来ないからと言って区内最低偏差値の中学へ進学させた親の事。

 高校へ入学した頃、早々に校内の性悪女どもに目を付けられて、中学時代に片思いしていた女が罰ゲームとして俺に告白してきた事。


 ああ、なんとも散々な人生だな。

 ほかにもクソみたいな事例はどんどんと浮かび上がってきやがる。最期くらい、いい思い出を見せてくれてもいいのに。

 だがもう終わる。もはや、死ぬ間際だというのに痛みすら感じない。

 こんな人生、ゼロからやり直してしまった方がよい。まあ、死んだ後にどうなるかなんて分かるはずもないが。


「次くらい、もっと良いものをお願いしますよ、神様さんよ。そうじゃない限り、俺はアンタを呪って、縛り続けてやる……!!」


 今まで心底に抱き続けた怨念を、居るかどうかも分からぬ神へ叫んでやった。この醜くき世界へ呪詛を、最期の最後で残してやったのだ。



  

 だが、途端に辺りが暗闇に包まれた。

 普通こういうのは徐々に暗くなってゆくものでは無いのかと思いつつも、更なる違和感が襲ってきた。


 何とも、身体の感覚が戻っているのだ。

 さっきまで無かった手足の感覚が、どういう訳か戻っている。

 何故か来ていた洋服は無く、真っ裸だが。


 だがその不思議な感覚を未だ受け入れられずにぼうっとしていると、今度は闇の向こう側から、すっと声と共に何かがやって来た。

 柔らかい光に包まれながら、暗闇の中なのにはっきりとその様子が見えてくる。


「ああ…… 貴方もまた、彼らに呼ばれてしまったのですね」


 それは、淡い紫色で装飾された白いフードを被る、銀髪の女だった。

 絹のような白く美しい装束に身を包み、一目見るだけでその美しさに唾を飲み込むような人間だ。

 だがそのフードは深く頭を覆い、その顔を詳細に見る事は敵わない。


 だがまったくもって意味不明だ。彼ら、とは一体何をほざいているのだろうか。次から次へと押し寄せる異常事態に、シングルスレッドな俺の脳はパンクしかけていた。

 そしてそれは、歩いてすらいないのにフワフワと徐々に俺との距離を詰めていって、ついに俺の前へ立った。


「お許しください、運無き人よ」


 うるせえ。運が無いのは百も承知だよ。


「貴方様もまた、彼らの御導きによって、ここへ呼ばれたのです」


 まーた訳の分からない事を……。どうなっているんだ。


「えっと、すいません。は?」


 思わず語気を強く聞いてしまった。


「……ああ、何とも。申し訳ありません。ですが、私のような賤しき身にはどうにもならぬ故、どうか、どうか、お静まりください……」


 するとどこか申し訳なさそうに俺をなだめようとするが、それ以前に一般的な男子高校生が女性の前で有らぬ状況に置かれている事が気がかりで無かった。


「いやいやいやいや、静まるも何も、まずお願いがありまして」

「何でしょうか……?」

「俺に服をお恵み下さい」


 そう言うと、伏せた顔を少し上げて俺の様子を伺い、彼女はすぐさま後ろへ振り向いた。


「あ、ああ……! な、なんという事を……!! しばしお待ちくださいませ、英雄様」

 

 声を震わせながら驚いて、いそいそとしている。

 最後の言葉が気になったが、言われた通り少し待つと、唐突に俺の身体中を白い光が包み込んでいった。


 気が付くとその光は消えて、俺の身体は鎧に包まれていた。

 目線を下に向けて、思わず手足を確認する。傷だらけであるが、確かに重厚な金属で作られたプレートが足から膝にかけてを覆って、腕や肘もしっかりと覆われている。太腿や胴体の部分は布のようなものだが、今まで着たこともないような程上質な質感だ。

 おまけになんだか頭も重い気がする。まるでめちゃくちゃ重いヘルメット被っているかのような感覚だ。

 ああそうか、兜を被っているのだろう。視界もかなり狭くなっている。


 小学生のころ、一度は夢見た「ザ・騎士」という感じの恰好になっているに違いない。

 さっきまでゴミみたいな走馬燈を見せつけてきていたくせに、一旦死ねばここまで良い物を着せてくれるのか。全く呪っておいて正解だった。


 そんな中二心をくすぐられながら、若干テンションが上がってきた俺に、彼女は続けた。


「改めて、貴方の事を申し上げたいと思います」


 俺が彼女の方を向くと、彼女は両掌をくっつけて、その上に白く輝く光球をゆらりと生み出した。

 ここにきて魔法かよ。確かに夢としては嬉しいが、段々とこの状況の異様さに冷めてくる。俺は一体どうなってしまったのだろうか。


「貴方は彼ら――【名浪なろう】達によって導かれた存在。天命は、貴方に名浪なろう狩りの使命をくさび付けました」


 なにがどうなのかさっぱり理解できない。まるで初めて物理の授業を受けた時みたいだ。言葉の一つ一つ全てが分からない。

 そもそもなんだ、何故俺になじみ深い日本語で話しているんだ。

 何故俺は騎士のような格好になっているんだ。

 何故暗闇の中なのに、彼女は明るく光り、俺の身体もはっきりと見えるんだ。

 冷静になれば、それだけ何もかもが分からなくなってくる。

 そしてそれが分かった途端、左手に千切れるような激痛が走った。


「ウグッ!! ああああ、い、痛い……!!」


 必死に左手を抑えながら、今度は胸の奥底から刺すような痛みが湧いてきた。

 死ぬ間際に感じなかった痛みが、今になって出てきたのだろうか。

 考える間もなく俺は真っ暗な地面に跪いた。

 

 だがその様子を伺う彼女は、表情は見せぬものの、どこか悟ったような様子で近づいてきて、掌の光球を俺へ近づけた。

 

「……そうなのですね。もう、時間が無いのですね」


 なんなんだ時間とは! 名浪ってなんだ!

 何も言わず佇む彼女に怒りすら覚えながらも、それを言葉で示せる余裕などとうに無かった。


「ああ、名浪狩りよ。名浪狩りの英雄よ。どうか、どうかこの異世界を。このアルカ=レイアを。その名を以てして――」


 ――名浪狩り、ルキウスよ。


 確かに俺へそう言った事を聞けば、意識は消えていった。


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