第十八話 聖女、神殿に行く
僕たちは、今中央広場の公園にいる。この町全ての道がここから放射線状に分かれている。その中心には噴水があり、何らかの神様か英雄の石像がある。北には町で一番高い鐘楼と神殿があり、それ以外の広場のへりには、所狭しと雑多な種類の簡易商店が並んでいる。敷物の上に直接商品を並べた所もあれば、机やテントの所もある。
僕たちはあの後雑貨屋で、黒のリュックを買って、モミが掘り出し物があるかもしれないから早く行きたいということでバザーに向かった。
僕はモミの手を引いてまずは神殿に向かった。素直についてくる。拝殿に入ろうとすると、衛兵にストップをかけられる。僕の格好が露出過多でふさわしくないらしい。モミが、クスクス笑ってる。建物の陰で、明らかにリュックに入らない黒のマントを出す。それを羽織ったらオッケーが出た。
中に入るとひんやりで、ロウソクの灯りで薄暗い。マントを羽織ったときに手は外したので、モミは僕の肩を抱き寄せる。なんか、本当の恋人同士みたいだ。僕が男でこのシチュエーションなら、最高なのにな…
「勝負だ…叫んだ方が負けだ…」
モミが僕の耳のそばで囁く。なに言ってんだこいつ?
「……ッ!!」
僕は叫びを飲み込む。モミが僕の脇に指を突き刺す。崩れ落ちそうになり、モミにしなだれかかる。
子供か!こいつは!
にらむ位で勘弁してやる。僕は大人だからな。
薄暗いなか、カラフルなステンドグラスから差し込んだ日の光が、ここの祭神の竜を踏んだ端正な顔の英雄の像を七色に彩る。大理石で出来た柱がかなりの高さまで伸び、至る所に天使の像が彫り込まれてる。天井も大理石で、植物のような模様が彫り込まれてる。静寂に包まれていて、微弱な風で蝋燭の光が揺れている。どんな罪深き者でも神の存在を感じそうな空間がここにはある。
「モミ、ここでなんか感じないのか?」
「んー、お腹すいた。それとカビくさい!早く買い物いこう!」
こいつの感性は、罪人以下だな!
気を取り直して。
「…少し座ろうか…」
モミは肯く。
後少しだけこの荘厳な空間で美少女と連れ添ってるという状況を堪能したい。
結婚式みたいだ!
まじで夢のハーレム物語の主人公みたいだ。女の子同士だけど…
木の長椅子にモミを引っ張って行って座ろうとする。
「……ッ!………クッ!!」
僕は叫び声を、何とか何とか呑み込む。
「ぎりぎりセーフかな」
モミは事もあろうか僕の座ろうとした場所に手を置いていやがった!しかも指をまとめて立てて!親指に三つの指を添えて小指は折っている。蟷螂拳や蛇突の指の形だ!
ドサッ!
完全に入った!
ミニスカートごしにクリティカルヒットした。僕はたまらずもんどりうって前に倒れる。胸が潰れて痛い!
モミはやさしく僕を抱き起こして座らせる。どさくさに紛れ胸を揉まれる。
神殿の神官っぽい人や参拝者が、僕達を見つめてる。モミは笑顔で両手を振って何もないことをアピールする。
「……なにしやがる……」
僕は苦痛を我慢し、声を絞りだす。
僕は生まれて始めて女の子にカンチョーされた…
女の子ってこんな下品な事するのか?
いや、しない!
モミだからだ!
「腹減ったっていってるだろ!それに退屈なんだよ!あんな石像拝んでなにが楽しいのか?あれが歌ったり踊ったりしてくれんのならちっとは退屈紛れるかもしれんがな!それか、お前歌え、あれに登って歌ってこい!」
最低限のモラルはあるらしく小声だ。けど間違いなくここにいたら近いうちに摘まみ出される。しかも神殿を敵にまわす事になるだろう。よくよく考えるとこうなることは計算出来た。僕は選択ミスを反省しつつ痛いお尻を押さえてモミの腕を引く。あと少しで変なものでるとこだった。
僕は復讐の炎を心に燃やし、神殿を後にした。