第十四話 聖女、混乱する
「大丈夫ですか、ご主人様!」
そう言えば牛男ってこんなに流暢にしゃべれたっけ?
「牛男、言葉上手くなったな」
「ありがとうございます。はい、一晩中、全力で修行いたしましたから。」
牛男はそう言うと微笑む。牛って微笑めるんだ…
「マリー!大丈夫?」
サリーが入ってくる。いた時間が長いから咄嗟にはマリーなんだな。
「あっ、またマリーになってる!」
サリーはそう言うと、牛男から優しく僕を受け取りぎゅっとする。柔らかい、暖かい、癒やされる。サリーはいいにおいがする。お日様のにおい。
頭の中でカチッと何かがはまった。
女子化の条件は男性に直接触れる事だろう。
最初はジェフとのハイタッチ。
次は力士衛兵。
今は牛男。
そう考えると、男子化は女性に直接触れる事だと思われるが、それにはなんかさらに条件がつくのではないだろうか?
最初は、モミ。
さっきはサリー。
二人に触れたことが変身のトリガーだと思うけど、マリーのときに女性とは結構激しいスキンシップを繰り広げてきている。男に戻った時の共通点はごっそりMPが無くなってる事なので、条件はMPの残量ではないだろうか?
「マリーちゃん!帰ってきて。帰ってきてー」
サリーが僕の頭をぽむぽむする。おっと考え込んでたらしい。サリーに今の仮説を話してみる。
「初めてマリーちゃんになったのはいつなのー?」
「おとといだ」
「それなら、おかしくないー?それ以前に男性に触れたことがある筈でしょー、そのときには変身しなかったのー?」
「そうだよねー」
「なにがー?」
「僕は生まれてこのかた男に素手で触れたことは、記憶の限りあんまり無いな」
「え!」
「ずっと山で生きて来たし、一緒に暮らしてたのは父さんと母さんだけだ。親父には武器でどつかれた事はあるが、素手で触れたことはない。親父はいつも皮のグローブをしてたしな」
僕はずっとサリーを抱きしめてた事に気付き、さっと距離をとる。心なしかサリーの顔が赤い気がする。
「マリーちゃんの親は、変身することを知ってたのね。それなら、一つ大きな疑問があるわ」
サリーは一呼吸おいた。
「マリーちゃんは、本当は男なの?女なの?」
「?????!」
『男なの?女なの?』
サリーの言葉が頭の中をリフレインする。
なんか引っかかる。胸の奥がもやもやする。
「どういうことだ?」
僕は声を絞り出す。何かが怖い。
「そうねー、わかりやすく言うと、マリーちゃんが生まれたときに、親御さんが、男か女か選べたのではという事よー」
僕は全身の力が抜ける。両親が変身することに気がついていたのなら、三つの選択肢があったはずだ。男として育てるか、女として育てるか、それとも変身することを教えて育てるか。両親はそのうちの男として育てるを選んだ。それなら最初はどっちだったのか?無論生まれてきた時は男だったと思われるが、それは母さんに触れていたからで、お腹のなかで変身したのかもしれない。そう考えると答えがない。誰か答えを出せるのだろうか?
僕は男なのか女なのか?
もし、この呪いなのか体質なのかが、治癒したときは、どっちになるのだろうか?
鼓動が早い。頭が痛くなる。僕はいままでの人生が幻だった気がしてきた。なにが本当なのだろう。怖い。
崩れ落ちそうになった僕をサリーが抱き支えてくれる。
「マリーちゃん!泣かないでー!大丈夫よ!大丈夫」
気がついたら、涙が出てた。サリーはそれを指で拭い、頭を優しく撫でてくれる。
「大丈夫!」
「大丈夫!」
もう片方の手で僕をぎゅっとしてくれる。暖かい。落ち着いてくる。
「マリーちゃんが男の子でも、女の子でもどっちでも関係無いわ!どっちでもあたしには大事なのー!」
サリーはやさしくやさしく僕をなでる。気持ちいい、僕は目をつむる。心がフラットになってくる。
トクン!トクン!
薄布越しにサリーの柔らかいものを通じて、彼女の鼓動が伝わってくる。僕は何をしてるんだ?ロリ美少女とはぐしてる。また、僕の鼓動が速くなる。いかん、意識したら恥ずかし過ぎる。
「サリー、ありがとう。落ち着いた」
僕はやさしくサリーを離す。
「ずっとこうしてたいのは、やまやまなんだけど、サリーとこうしてたら、今度は違う意味でおかしくなってしまいそうだ…」
「それって、あたしがかわいすぎるから、おかしくなってしまいそうって意味かなー?」
「今日はそういう事にしとくよ」
ピンポーン!
ドアのチャイムが鳴る。
「おはよう!」
「おはようございます!」
アナとモモさんだ。