第五話 聖女は男物の服を買いたい
「お父さんに、シャツをプレゼントしたいのだけど、一緒に選んでくれませんか?」
我ながらいい言い訳が出来たのではと思う。セリフも心の中で何度も練習したので、不自然ではないと思う。ちなみにくそ親父には死んでもプレゼントしたくない。プレゼントは露出狂の噂だけで十分だ!
「お父さんにプレゼント?ほんとにお父さんなの、彼氏じゃないの?」
サリーが目をキラキラして腕にしがみついてくる。駄目だ、これは慣れない…
回りで何人かの男性が僕達を、特に胸を凝視してる。どう見てもこの店の買い物客とは思えない。
あとの二人も僕達につかず離れずなとこにいる。三人とも、目立つように金の認識票を首にかけてる。これが、僕らを守ってくれている。獰猛なライオンが三匹うろうろしてるようなもんだ。
「彼氏もなにも、私、山からでて来たばかりだから、冒険者ギルドの受付さんと、あなたたちしか知り合いいないわよ!」
そのからみも想定内!よどみなく答える。あと、聖都でクラン『セイクリッド・マローダー』のメンバーと面識があるが、日が浅かったので、ジェフ達以外はあまり知らない。
「それなら、私達に服をプレゼントしてくれ、ここに居ない親父さんとかどうでもいいだろう?」
アナが訳のわからん事を言ってくる。コイツの頭は異次元なのか?まったく予測が出来ない。
「わかったよ、ついでに買ったげるよ」
いかん、こいつと話すと女言葉が解けちまう…
「これなんてどうかしら?」
モモさんは、オッサンの着るような肌着と腹巻きをもってくる。あなた、解ってぼけてるでしょ。
「お父さん、それ貰って喜ぶかなー?」
「私のプレゼントなら、なんでも喜ぶわ」
モモさん、お父さんと仲良しなのですね、すんなりと彼女は、服を戻しに行った。
「彼氏じゃなくてー、父親じゃない人のために服を買う…、パパ!パパがいるのね!!」
サリーが僕に指を突き付ける。
「パパなど、おらんわ!オッサン全般きらいだわ!」
ついに若干きれてしまった。頼む僕の服を買わせてくれ!
「それも違うならー、もしかして、マリーちゃん男の子だったりして、今は変身してるとかで!」
サリーの言葉に、僕は硬直する。なんて鋭いんだろ。ここは、素直に告白したがいいのでは?
「サリー…実は…僕は…」
やはり、迷う、どうすればいいんだろう…
『モンスター!モンスターが出たぞー!』
遠くから、叫び声が聞こえる。途中から、薄々気づいてました。僕の服は買えないのね……