第二話 竜戦士から聖女に【後編】
「役所での、買春は犯罪だ!豚箱に入りたくなかったら、黙って俺の言うとおりにするんだなぁ!」
「お前、なに言ってやがる。僕は何もしてない」
「いーや、俺がそう言ったらそうなるんだよ」
「話を聞け。馬鹿野郎」
「おっと、侮辱罪も加わったな。しっかりお仕置きしないとなぁ」
力士が口の端を上げる。後ずさろうにも後ろには便器しかなく窓も開いてない。万事休す。
力士が僕に飛びかかる。避けようにもトイレの個室は狭くて逃げれない。
「キャアアアアアアッ!誰かっ誰かー!助けてー!」
出来るだけ通るように、高い声をあげる。他の衛兵はいないのだろうか?
「無駄だ、後一時間は誰も来ねーよ」
力士は僕に抱きついてきた。臭いし気持ち悪い。
逃げだそうと、全力で何度も何度も力士を叩くが肉が揺れるだけで、全く効果がない。マリー非力すぎる。
「こんな所でしてたお前が悪いんだからなー!」
なにもしてないっつーの。
力士は力づくで左手で僕の右手と左手を掴んでつり上げる。
会いた右手で荒々しく僕のワンピースの胸元を引きちぎる。
ああ、また僕の貴重な洋服が…
胸元が開いて胸がこぼれでる。
「おお!でけぇ!中身を拝ませてもらおうか!」
嫌だ!
僕もまだじっくり見たことないのに!
黙ってやられてたまるか!
今の僕に出来ることは?
「グラビィティ・ゼロ!」
僕と力士の重量をゼロにして飛び上がる。無重力にさらされて、力士の力が抜ける。
やった。チャンスだ。
巴投げの要領で、後ろに半回転し、力士の頭が下を向いた所で蹴って離れる。力士に重力が戻る。
「オブェェッ!」
力士は便器の蓋を頭で突き破る。
うんこには便器がよく似合う!
僕はくるんと着地し駆け出す。
「くそがーぶち殺す!」
力士が走り出した音がする。
「くそは、お前だ!ばーか!!」
振り返らず走る。重力操作で今の僕は一般人よりは速いはず。
転がるように衛兵詰め所を出ると、ちょうど黄金冒険者の三人がいた。仲良く僕のあげたシャツを着ている。
ラッキー!
正直面倒くさいから関わりたくはなかったが、こいつらの方が力士の百倍はましだ。
「助けて下さい!」
アナに上目遣いですがりつく。
後ろから力士が追いついた。
「お前ら!こいつは犯罪者だ捕まえてくれ!」
アナは交互に僕と力士を見る。
「どこからどう見ても、お前が犯罪者だっ!」
手にした箒で、アナは力士を殴りつけた。