第四十二話 竜戦士勝利する
やばい!気が遠くなる。一瞬気を失った気がする。鼻血は止まらんし、グングニルは覚醒したままだ。血が足りない。
「だいぶ疲れてきたようだな。本当は、正々堂々戦いたかったのだが、これはゲームではない。命のやりとりだ!悪く思うなよ!全力でいかせてもらう!」
何が正々堂々だ!だまし討ちしようとしたくせに。あと、いつ命のやり取りをした?
アナは、箒を両手で構える。金色の光が体から溢れ、服が透ける。小振りだけど形のいい胸の形がよくわかる。あと、横縞のショーツも透けている。
ありがたいことに、透けてはいるけど、大事なものは見えてない。布地のおかげだ。それでも、僕には刺激が強すぎる。早くなんとかしないと。
しばし対峙する。くやしいが、正直こいつは綺麗だ。まるで天使や女神にしか見えない。けど、残念なことに、完全変態だ!
「じろじろ見るな!変態がっ!!」
変態には変態っていわれたくないものだ……
アナは低めの構えから箒を突き出す。今まで三つに分かれていた穂先は、二つにしか分かれない。さすがに彼女も疲れてきたのだろう。
それをかろうじてかわす。両手が塞がっているのが痛い。
出来るだけ間合いを取ったのだが、すぐには追撃がこない。
彼女はサイドステップしてから、また、攻撃に移った。
あ、そうか、僕の鼻血を踏みたくないのだな。
よく考えろ。
どうやったら切り抜けられるか?
勝利条件はここからの離脱。ここを離れれば、もう追っては来ないだろう。
仲間二人を置いてく事は出来ないはずだ。
跳躍して、打ち落とされなければ僕の勝ちだ。
そのためには加速魔法が必要だが、離脱できる位の魔法は今は一回しか使えなさそうだ。
アナの攻撃を避けながら考える。
まずは、グングニルをしっかり押さえ、思考を逸らすことでロンギヌスに戻すそうと思う。両手をどうにかしなくては。
ありがたいことに今は尿意が少し治まっているが、これも何時までもつかわからない。
静まれグングニル!
心を研ぎ澄ます。
「いつまで、両手を使わない気だ!」
アナが怒鳴る。
彼女はしこたま汗をかいてて、服が体に張り付いている。しかもだんだん金色の光が強くなってきて、さらに透けている。
なんか、色々見えそうだ!
やばい!
せっかく静まりかけたグングニルが!
静まれグングニル!
静まれグングニル!
「静まってくれ!!グングニル!!」
つい、叫んでしまう。
無意識的にグングニルを持つ手に力が入る。
「お前、なにやってんだ?股間をいじって?」
いかん、そういう風にも見える。
「も、もしかして、男子はそういった行為をするって聞いたことがあるわ…」
アナは、顔を真っ赤にする。
やっぱ、エルフ系だ、頭いたくなる…
「違うわ!そないなことあるか!」
ついつい突っ込んでしまう。いかん調子に乗らせてしまう。
「戦闘中に私を見てそんな行為を…」
アナは僕の股間から目を背ける。
「度し難い変態だな!どうしてでもその両手の中身を拝んでやる!」
ぶれない奴だ!
エルフの居ない世界に行きたい。
「戦神降臨!!」
アナは叫ぶと金色に光輝きだした!これ、タイタンの時に見たぞ。
「私の最終兵器!文字通り奥の手だ!!闘気を溜めて異界の戦いの神を我が身に宿す。戦闘能力は飛躍的に上がるが、その後しばらく動けなくなるのが難点だ!!」
きっちり説明してくれる。要は自慢したいのだろう。
中二か!
けど、この後こいつどうするつもりか?
動けなくなるのだろう?
ばかなのか?
いやばかだ!
さすがエルフの血を引く者!
「くらえ!」
箒が僕に襲いかかる。変幻自在にいくつもに別れる。直撃は避けたが何発もいいのをもらい、僕は膝をつく。
しかも、際どく透けた彼女の胸が攻撃に合わせてぷるぷる揺れるのが目に入ったおかげで、鼻血は止めどなく溢れグングニルの覚醒は静まらない。
ほんとにやばい、これはもう終わったかも。けど、諦めてたまるか!
考えろ!
いま自分に何が出来るか?
「立て!次で終わらせる!!」
僕は頷き、立ち上がる。
だが、今は、喋ることが出来ない。
「最終奥義!ハンドレッド・アタック!」
アナの突きだした箒が数えきれない程無数に別れ僕に襲いかかる!
まだだ!引きつけろ!
まだだ!
まだだ!
危ない!あたる!!
今だ!!!
ブブブブーーーッ!!!
渾身のカウンターだ!
僕は口に含んだ鼻血を毒霧にして吹きかける。
こいつは、下品だけど耳年増な潔癖症なはず。
アナは、引き攣った顔で反応し、大きく後ずさる。
このタイミングで避ける事は予測ずみ。
だけど無駄に逃げすぎだ!
「アクセル・テン!グラビィティ・ゼロ!!」
僕は両手をひろげ、飛び上がる!
彼女はなにが起こってるか解らないはず。
勝った!
「逃ーがーさーんーー!!」
ガシッ!!
なにかに両足を捕まる!
なにっ!!
アナが渾身のジャンプで飛んで来た!
僕は地面に引き戻される。
「キャアアアアアアアッ!!!」
アナが可愛い声で叫ぶ。
今僕らは、体は触れ合ってはいないが、ちょうど、逆肩車のような体勢だ。ちょうど彼女の目の前にはグングニルがある。
僕の重力操作は、触れたものにも効果を及ぼす。さすがにこの高さから落ちたらアナも無事ではすまされまい。やむなく、足で彼女を支え緩やかに落下する。
「キャアアアアアアアッ!つく!つく!顔についちゃうわ!」
アナの話方が女の子っぽくなっている。動揺し過ぎだろ。
アナの吐息が、グングニルにかかる。
ピトッ!
「キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!もう、だめー!……………………おいなりさん………」
彼女は動かなくなった。
少女二人を僕のグングニルは打ち倒した。
いくらなんでもおかしい。なんか変なスキルをいつの間にか獲得してるのではないだろうか?
満身創痍だが、なんとか黄金認識票の三人を倒した。もっとも倒したかったのは、『セイクリッド・マローダー』の三人だが。
僕は今は勝利の喜びを噛み締めてしばらく佇んだ。
第一章 『聖女と竜戦士』完