第二十話 魔王の欠片
「ご主人様、下がってください何か来ます」
僕とウシオが穴の底に降りると、そこにはうつ伏せに倒れている死王がいた。ここからでも腹部に大きな穴が開き、体が千切れそうになっているのが分かる。
近づいてる途中、ウシオに促され、僕はその背を降り後ろに隠れる。
ウシオの言ったとおり、死王の体の傷口から、何か黒い液体みたいなものが競り上がって来る。そしてそれはゆっくりと膨れあがりのっぺりとした人型になった。
「ていっ!」
駆け出したウシオがいつの間にか手にした斧で、のっぺりとしたした人型を斬りつける。だが、まるで空を斬ったかのように風を切る音しかせず、人型はゆっくりとウシオに近づいてくる。
『マリーちゃん、アレを浄化するのよ、あなたなら出来るはず』
頭の中に母さんの声がする。母さん得意の念話だ。
「アレは何なの?」
『欠片。魔王の欠片よ。触れられたら取り込まれるわ。急いで!』
珍しく母さんが焦っている。
「ウシオ、離れろ!」
即座にウシオは距離を取る。浄化、浄化って言っても何すればいいんだ? 僕には浄化の魔法は使えるが効果的あるのか? タッチヒールの魔法は僕が全力で放つ事で進化した。もしかしたら浄化の魔法も圧縮することで進化するかもしれない。
僕は集中する。傷ついた仲間を癒す事になるかもしれないから、使うのは魔力の半分くらいだ。
口で呪をつむぎ、両手で印を成す。少しでも威力を増すために、正規の律で魔法を組み立てる。眩い光が僕の手から弾ける。全てのものを浄化する光。
「美しき世界」
自然に口から出たこの魔法の名前。圧縮された魔法は世界の壁を越えた。全ての存在を美しき者聖なる者に変換する絶対魔法、『美しき世界』が誕生した。光は穴の底の全てのものを包み込んだ。
のっぺりとした人型は光に触れると音もなく消え去った。
とても長く感じる少しの間、暖かい心地よい光に包まれて、それは消え失せる。
「さすがです。ご主人様」
ウシオが笑顔で振り返る。ん、なんかよりイケメンになってるような?
その後ろの死王の下に歩み寄る。僕は気付いている。それは、もはや死王では無い。白い4対の翼にまるで天上の女神のような白い鎧をまとっている。依然体は千切れかけ虫の息だ。
「タッチヒール」
僕はかがむと、死王だった者に触れてその傷を癒す。僕の意図を与したウシオが、元死王の体を動かして上手く接合させる。みるみるうちに傷は繋がり、羽根や腕がピクピクと動き始める。
「うーん……。私は一体?」
死王だった者は膝をついて起き上がる。まるで日を受けた稲穂のような金色の流れる髪にエメラルドグリーンの瞳。僕よりも少し小さい暴力的な胸にくびれたウエストは服が破れておへそが見えている。天使。昔教科書の宗教画とかで見た神々しい天使の姿だ。まさか、黒鎧の中にこんなものが入ってるなんて……。
モモさんといい、黒いゴツい鎧の中には美少女が入っているというルールでも有るのだろうか?