第十九話 竜戦士
「なかなかやるな」
煙が上がる大穴の中から声がしたような?
カッ!
目の前が一瞬にして真っ白になる。光、強い光だ。いかん、完全に不意を突かれた。
ドンッ!
目が見えない中、僕の上に何かが覆い被さってくる。大きな弾力のある感触、男の誰かか?
「ウグッ」
のしかかって来た者が呻く。この声はウシオ。
「タッチヒール」
呻いていると言うことは、僕を助けようとして何らかの攻撃を食らったのでは。念のため回復魔法を使った。
僕を覆っていた者が立ちあがる。やはりウシオだ。
「ご主人様、お怪我は?」
「大丈夫」
出された手を取って立ちあがる。
「ほう、まだ生きている者がいたのか」
大穴の上に浮遊する黒い鎧。4対の黒い蝙蝠のような羽根がはためいている。辺りを見渡すが、動く者はいない。みんなは何処に行ったんだ?
「ご主人様、大丈夫ですよ。ただの衝撃波です。皆さんは耐えられず吹っ飛ばされただけだと思われます。もっとも、ベルは死んだかもしれませんが」
さすがウシオ。僕の考えを読んだかのような言葉だ。僕たちの仲間入り内で、物理耐性が無いのは僕とベルのみ。僕はウシオが庇ってくれたけど、ベルは大丈夫だろうか? 心配だが、まずは、目の前の死王をどうにかしないと。
けど、どうしよう。さっきの猛攻で死王は傷1つついてないように見える。舐めすぎていた。さすが伝説の一角。ウシオは強いが物理オンリーだ。死王に傷を付ける事は出来るかもしれないが、倒せる確証が無い。戦わせるのは危険だ。どうにかして男に戻れたらまだ手はあるのだが……
打つ手が思いつかない。ここは逃げるしかないか?
そう思って死王の方を見ると……
ドゴムッ!
大きな何かがぶつかったような音と共に、目の前の死王が消え去る。え、何だ? 何が起こった?
訳が解らないうちに、目の前の穴から、何かが飛び出して天空に消えて行った。一瞬だがその全容を捉える事が出来た。流線型の黒い鎧に長い黒いランスを手にした者。
「ケン・シドー」
僕はつい、クソ親父の名前を口にする。さっきの装備は竜戦士。僕の中で知ってる最強の竜戦士は僕以外に親父しか知らない。けど、親父の訳は無いよな。
「ご主人様、どうもいいとこ持って行かれたみたいです。さっきまで死王から放たれてた邪気をもう感じないです。生きてるのか確かめにいきましょう」
仲間の事も心配だが、もし死王が健在ならそれどころじゃないな。
「ウシオ、頼む」
僕はウシオの背中にしがみつく。僕は穴の中を歩ける自信がない。
「グラビティ・ゼロ!」
重力をカットして僕たちは深い穴に向かった。