第三十五話 竜戦士、危機に陥る
チュンチュン!チュンチュン
外で小鳥の鳴き声がする。温かい日差しが僕に注ぐ。よい朝だ。
全身が痛い。昨日はとっても激しかったから。
僕の裸の胸には可憐な女性がしがみついている。モミだ。僕の鍛え上げた胸板に、頬を、押し当てている。
鍛え上げた胸板に…
鍛え上げた胸板に…
鍛え上げた胸板に??
僕はモミを抱きしめる。薄布越しに柔らかい感触が伝わってくる。幸せが僕を包み込む。
ちょっと待てよ、僕の豊満な胸が無い?!
もしかして、いつの間にか男に戻ってる!
痛む頭の中僕は考える。
これってやばいんちゃうの?
モミは、マリーは知ってるが、今の僕、キラとは面識がない訳で……
しかも、僕の格好は、ひどいものだ。
タンクトップは破けて、服としての機能を果たしてはいない。下は女物のカボチャパンツを履いている。
どこからどう見ても完全無双のただの変質者だ!
これで彼女が目を覚ましたら、抹殺されてしまうだろう。社会的にも人としても!
「ううん、あさー?」
やばい、モミがおきそうだ!寝ぼけまなこがプリチーだ!
「………」
「アクセル五倍!!」
「アーンド、グラビティ・ゼロ!!」
僕は得意な加速魔法をブーストして行使し重力操作を発動して飛び上がる。加速魔法で伸ばされた時間の中考える。
今、モミに顔を見られたらやばい!
キラ・シドーという英雄の卵は、只の変態として、世に知らしめさせられる。
ここで顔を見られたらやばい!
今、僕の唯一の武器は、カボチャパンツのみ!
僕の心に、親父から聞いたとある伝説のヒーローが降臨する。
……気は進まないが……
その間0コンマ2秒!
僕は後方に高速回転しながらカボチャパンツを脱ぎ、それを顔に装着する!!あと、首から下げた封魔のロザリオを外し握る。溢れんばかりの、魔力が解放される。
「フォォォオオーーーッ!!」
僕の中で何かが溢れ、人として大切な何かが崩れ去る。
ある意味覚醒したのかもしれない。
僕は、華麗に着地し、右手を前に突き出し、左手を頭の後ろに回し、最高のポーズを決める!
「キャアアアアアアアアアッ!」
モミは、目を塞ぎ叫ぶ!そりゃそうだ、僕の、神を貫いた槍ロンギヌスは丸出しだ!
「私の名前は、クレイジー仮面!決して怪しい者ではない!」
最高のイケボで僕は声を張る。
「どこをどう見て怪しくなく無いのよー!」
モミが僕のロンギヌスに投げつけた枕を、腰の動きだけでかわす。
「お嬢さん私は、正義の使者!困った事があれば、力になろう!!」
僕は、モミに手を差し伸べる。これで少しは彼女も落ち着くだろう。
「あたしは、あんたに困ってるのよー!初めて見た、きもっ、どっか行ってー!変態!」
モミは、泣きながら、辺りにある物を僕に投げつける。それを華麗に避ける。変態は、少し傷つく(泣)!
「フッ!強情な娘さんだ!では、さらばだっ!」
僕は華麗に窓から身をおどらせ、バルコニーに出る。
「とうっ!」
バルコニーの床を蹴る。僕のロンギヌスが、ぶるんぶるん揺れている。
「侵入者、変態、確認、迎撃します。」
下を見ると、警備の石のゴーレムさんが、僕の方を見てる。モミの悲鳴を聞きつけてか、外には入居者と思われる女性たちが。わらわら出てきてる。
「迎撃します」
ゴーレムくんの目から出た光線が、僕をかすめる。アブねー、ロンギヌスが消し炭になるところだった。
「ファイヤーボルト!」
「アイシクルランス!」
「サンダーストーム!」
入居者と思われる女性達の魔法が僕を襲う。重力操作で、落下をコントロールしながら、ことごとくかわす。けど、紙一重だ。長くはもたない!
「死ねーっ!変態ーーっ!」
バルコニーからは、モミが弓をつがえて、僕に、矢を放ちまくる。
顔以外は全て丸出しの状態で、特に下からは、すごい眺めだろう。上からは、正確無比にモミが矢を打ちまくり、下からは、ゴーレムの光線と、様々な攻撃魔法が僕を襲う。見ると金色や銀色の認識票を首からかけた高レベルの冒険者もいるみたいだ。空中に浮かんでる僕は格好な的だ!
このまま僕は死んでしまうのだろうか!
人として…