第十話 扉のラビリンス
「よう!なっげぇ風呂だったな!」
脱衣所から暖簾をくぐって出たら、ギル王子が浴衣で座って待ってた。隣にはイカもいる。
「悪い、待たせたな。やっとほぼ魔力全快。どれだけ死にかけても回復してやるぜ」
王女のこと言葉どおり長い風呂で、魔力はほぼ全快した。後ろから黒ベルが出てきてぬれーっと歩いていく。
僕も脱衣所にあった浴衣を着ている。金カブのシャルとマグロも浴衣だ。黒ベルがうろついてる以上、ほかのメンバーは僕の影のシェイドの部屋にいた方が無難だろう。デブと裸はもう勘弁して欲しい。
「母さんたちと合流したいけど、何処に行けばいいんだ?」
僕はマグロに尋ねる。
「まずは町にでてマップを手にいれないと何処もいけないっす!」
「町にはどうすれば行ける?」
「マップがないといけないっす!」
「マップはどうすれば手に入る?」
「町に行けば手に入るっす!」
むう、話が進まない。
「要は、あてずっぽに、行くしかないと言うことか…」
そう言えば、母さんが迷うと出られなくなるとか言ってたような…
「ここは、迷宮都市の地下一階、扉のラビリンスって母上が言ってたっす!」
今の所、適当に行って誰か探すしかないだろう。
僕たちは、黒ベルにビクビクしながら歩き始めた。
「何故、扉のラビリンスって言うかというとですね、目的地へのマップを持ってるとですね、正解の扉が光っても見えるそうなんすよ!外れの扉に入ると何処行くか解らなくて、来た扉は消えてしまうっす!」
僕達は露天風呂の前の通路を端から端まで、歩いてみた。暖簾の反対に扉があり、その数は五つ、出会ったのは黒ベルだけだ。
いつの間にか、王子は赤のブーメランパンツ一丁になってる。
「お前!いつの間に脱いだんだ?露出狂なのか?」
「何言ってる!お前らをベルからかばってやったんだよ!」
「ありがとう、すまん、ついつい趣味かとおもってしまった!」
ん、ベル!黒ベル!あいつらはどこから来てどこに行ってるのだろう?
僕達は一体の黒ベルに目星を付けてついていく。扉を開ける。歩く。扉を開ける。ずっと歩く。扉を開ける。
僕達は見慣れた場所に出る。ベルハウスだ!懐かしい!出口の扉を開けようとするが、固く閉まっている。黒ベルば戸棚から何かを取る。銅貨だ。次の瞬間、黒ベルの手には蒸かし芋が握られてた。それをもきゅもきゅ食べている。
「あいつ、芋食いにきたんすかねー?」
「芋、奪ってみようか?」
王子が芋を取ろうとするが、黒ベルは抵抗して、一気に芋をかっこんだ。むせて、胸を叩いている。僕は収納から水筒を出して黒ベルに飲ませる。飲んだ!
「ありがとう。マリー」
黒ベルが僕の名前を呼んだ?
また黒ベルが歩き始めるが、なんとなくその足取りが軽く見える。
しばらく扉をくぐったり歩いたりすると、金の縁取りの扉についた。黒ベルが扉を開けて中に入る。そこは壁全面に本棚があり、びっしり本がつまっている部屋だった。中央には机と椅子がある。黒ベルは部屋に入ると黒い霧になって消えてしまった。ここを探せと言うことだろう。扉を閉め、シェイドの部屋からみんなに出てきて貰って、僕達は本を漁り始めた。