折れない心
「リナ、なんかあったらお前だけ逃げるんだ」
アースはあばら屋の隙間から外を見る。
大丈夫だ。まだ何も居ない。ここには気付かれてない。
アースは胸をなで下ろす。その手を妹のリナがしっかりと握っている。
ここは山奥の開拓村。行き場のない者たちが集まって、少しづつ山を切り開き畑を作りながら細々と暮らしていた。元々はとても貧しかったが、長い歳月をかけてやっと最低限の暮らしが出来るようになってきた所だった。
近くの洞穴にゴブリンが住み着いたのはほんの少し前。畑の作物や家畜を盗まれるのが相次ぎ、村のなけなしのお金をかき集めてそれをもって村長が近くの町に冒険者を雇いに行ったのが3日前。
それは間に合わず、ゴブリン達は村に夜襲をかけてきた。村のあちこちから火が上がり、アースの父は勇敢に農具でゴブリンに立ち向かい果てて、その母もアース達兄妹を逃がすためにゴブリンの犠牲となった。
「ギャギャギヤッ!」
村を蹂躙したゴブリンの集団がアース達の方にやって来た。その数が減っているのは、村人達の抵抗のおかげだろう。
「リナ、逃げろ」
アースは廃屋を出てゴブリン達にその身を晒す。
せめて、リナだけでも。
アースの願い虚しく、リナは竦んで動けない。
「ギャギャー!」
奇声を上げながらゴブリン達はアースに近づいてくる。
もう駄目だ。
アースは観念するが、ゴブリン達は近づいて来ない。
「間に合わなかったか。けどお前達はぶっ殺す!」
アースの目の前に巨大な影が立ち塞がる。
金属の部分鎧に広刃の直刀と小さな丸盾、冒険者の戦士だ。
アースの目にはまるで神が降臨したかのように映った。
「坊主、逃げろ!」
冒険者は振り返らず大声を出す。
しかしアースも体が竦んで動けない。
「行くぜ、ドウリャー!」
冒険者は咆哮を上げるとゴブリン達に突っ込んだ。
戦士が剣を振るう度に1体のゴブリンが地に伏していく。
ゴブリンの攻撃を盾で流して、急所を刺す斬り伏せる。囲まれ無いように一定の距離を取りながら戦う。決して強くなく洗練されてない戦い方だったが、アースの目は勇者を見るそれだった。
10匹以上いたゴブリンも残す所あと1匹。けど、最後の1匹は見るからに大きい。
「やっかいだな、ホブがいやがったか、あいつらはこいつにやられたのか…」
冒険者は言葉を吐き捨てると果敢に巨体に挑みかかる。
ホブゴブリンの武器は剣、冒険者と魔物は接近すると、激しい剣戟を繰り返す。打ち合うこと数合、冒険者の剣が魔物の首を貫く。
アースに振り返る冒険者。けど、その腹からは一振りの剣が生えている。
「ここまでか、勇者アルスの名を世間に知らしめたかった…坊主…受け取ってくれ…」
冒険者は剣をアースに放り投げる。あと懐から巾着を出して差しだす。
「生きろ…」
それが冒険者の最後の言葉だった。
「アース兄ちゃん…」
リナがアースに声をかける。
「いや、アルス。今日から俺の名はアルスだ」
アルスは巾着を受け取り剣を拾った。
その剣はアルスの命を幾度となく救ってくれた。その剣は折れてしまったけど、アルスは折れる事の無い強い心を受け継いだ。
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