闇との遭遇
「ファイヤーボルト!」
赤い髪の少女の手から放たれた炎の矢は木の的に命中する。
「すっごーい、サリーちゃん。あたしなんて火を出すだけでやっとだよ」
黒い長い髪の少女がサリーと呼ばれた赤い髪の少女に抱きつく。
ここは魔道共和国シャンバラの首都シャングリラにある教会という名の孤児収容所の中庭。赤い髪の少女サリーと、黒髪の少女マリーは孤児で、ここで魔法を教えられている。2人共まだ10才にも満たないのに魔法を発動させた収容所の天才だ。2人はほぼ同時期に収容されて、まるで兄弟のように仲が良かった。2人がここに来てもう2年になる。ここに来たばかりの時には2人より年上の者ばかりだったけど、気がつけばもう最年長になっていた。彼女たちは年上の者たちがどこに行ったのか知らない。教会の墓標の銘が増えていた事も。
ある日2人は地下室に教会の神官長に連れて行かれる。2人が初めて訪れる場所だ。饐えた空気が辺りを支配している。神官長の隣には見たことのない太った豪奢なローブを纏った人物がいる。
「お前たちは、魔法を使えるようになった。お前たちにはわが国をさらに発展させるために力をかしてもらう」
神官長の所に召使いが2つの黒いボーションの入った瓶を持ってくる。
「これは、魂を分割する薬だ。上手く耐えきったら魔法を同時に2つ発動することができるようになる。耐えられなかった者は死んでいる。飲むのはどちらか1人でいい。飲んだ者が見事耐えきったらもう1人は勘弁してやる。試練をくぐり抜けたら、評議員の先生の家で何不自由なく暮らせる」
神官長は2人に薬を差しだす。年よりも聡かったサリーこの時悟った。居なくなった年長者の末路を。
「サリーちゃん、元気でね…」
サリーが呆然としてるうちにマリーがポーションをてにとる。
「だめっ!」
サリーは何も考えず、マリーが栓を開けたそれを奪って喉に流し込む。とたんに視界が闇につつまれる。
気がつくと真っ暗な何もない空間。向こうから誰かが歩いてくる。ほのかに明るくなり、サリーはそのものの姿を捉える。緑色の髪の朝黒い肌のサリー。
「あなたは誰?」
「私はお前だ。そこにある扉を抜けるとここから出れる。けど出られるのは1人。私かお前の残されてた方はずっと闇の中にとりのこされる」
いつの間にか、遠くに扉が見える。サリーはしばし考える。
「じゃ、あなたが行って。あたしは残る。そのかわりマリーちゃんをよろしくね」
サリーはその場に座り込む。怖い。怖いけど誰かを犠牲にして自分が助かるのは嫌だ。
「わかった。私はマリー解らない。じゃ、お前が行け」
みるみるサリーに扉が近づいて来て、開いた扉に吸い込まれる。光が辺りを満たす。
「やはり、駄目か、魂が2つに別れたら主導権を巡ってせめぎ合い、最終的には心が壊れるみたいなんです。こいつらも駄目みたいですね」
神官長の声が聞こえる。評議員と話しているみたいだ。
サリーは目を覚ます。その横には目から血を流して座っているマリーが。
「マリーちゃん!」
サリーはマリーを抱きしめる。けど、その体にもはや温もりは無い。
「騙したのね」
心労ゆえにか、サリーの真っ赤だった髪は真っ白ではなく、白に近い桃色になっていた。その桃色の髪が緑に染まる。
「サリー、任せろ。私は今までみた全ての魔法が使える」
一瞬にして神官長と評議員は焼き尽くされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『私は、そうだな、シェイド、シェイドど呼んでくれ。私はお前、いかなるときもサリーの味方だ』
頭の中に響く声に耳を傾けながら、サリーは街道を歩く。
サリーとシェイドは都市シャングリラを後にした。