緋色の記憶
「ウオオオオオオオーッ!」
雄牛の頭に張り裂けんばかりの筋肉を纏った巨漢は、たけび声と共に人間の子供くらいなら隠れて見えなくなるような巨大な斧を振り回す。
黒い旋風。
それの通った後には、ただ原型を留めない肉片や鎧や武器の欠片のみが残っている。
もうどれくらいになるのだろうか?
牛男は考える。
来る日も来る日も迫り来る不死の者共をなぎ倒す。
自分はただ、止ん事無き御方の刃になるのみ。
牛男は考える事を止めると、また斧を振るい続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
聖都からマリーの母親が孤児院を転移させて、しばらくは安寧の日々が続いた。
牛男は孤児院の子供達に稽古をつけたり、その世話に追われていたが、その日々も唐突に終わりを告げる。転移先の迷宮都市にもアンデッドの軍勢が現れたのだ。
子供達と邪神達は安全のため迷宮都市の奥に匿われ、牛男はただ1人孤児院を守るために戦う事にした。
始めのうちは、ゾンビ、スケルトンなど低位の魔物だったのが、日を追う毎に高位のものに変わっていき、いつの間にか、ゴールドアンデッドナイト、最高位に近いものも現れ始めた。
不眠不休で戦い続け、生物の性、限界と言う名の終焉が近づいて来る。
何も飲まず、何も食わず動き続けて限界は突然にやって来た。
牛男はもう、指先1つ動かす力も残っていない。
「すみません、ご主人様」
脳裏に浮かんだのは、その主、巨大な胸に妖精のような可憐な顔の少女だった。
牛男に不死者達が群がり、その意識は闇に沈んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『世界の終わり』
牛男の目に映ったのは、自分の主人に酷似した緑の髪の少女。その手に握られた緋い薔薇が急速に萎れて白い粉になり散華する。
『なんだ?俺は何を見ている』
緑の髪の少女の手に全てもののエネルギーが集まる。
『そうか、そうすればいいのか!』
牛男は薄れ行く意識の中、自分の主人から分け与えられた力の事を思い出す。主人から受け継いだ神晶の欠片の記憶。
「ウオオオオオオオーッ!」
牛男は再び立ち上がる。回りにいる者のエネルギーを取り込んで。
全ての動くものが居なくなり、そこには1人の男が立っていた。
緑の髪の少女が持っていた薔薇よりも緋い髪の精悍な顔つきの青年が。
「俺はご主人様を守る。その為にはこんな所でくたばるわけには行かない」
緋色の髪をなびかせて、ウシオは歩き始めた。
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