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 神晶の因縁


「アテナ、この部屋には絶対入っちゃだめよ」


 アテナにその母のグレーシアが腰に手を当てて諭す。アテナの背丈はグレーシアの半分にも満たないのだが、グレーシアはどう見てもまだ未成年にしか見えない。その理由は耳を見れば解る。長く尖った耳、長命種であるエルフの特徴だ。それに比べてアテナの耳は尖ってはいるが、そこまで長くは無い。ハーフエルフ。人でもなくエルフでもなく、この世界では迫害される事の多い種族だ。


 それでも、アテナは周りから愛されて生きて来た。アテナの父イチローは人間ではあったが先の大戦で異界の神アレスを宿して闇の軍勢からその身と引き換えにエルフを守った英雄だったからだ。


「アテナ、母さんをたのんだぞ!」


 出陣の前にアテナを撫でたイチローの手の温もりをアテナは覚えている。


 そして、冷たくなったイチローにすがりついて、親子共々数夜泣き明かしたのは数日前の事だ。


 グレーシアが立ち去ったのを見届けて、アテナは即座に立ち入りを禁じられた部屋に入る。駄目と言われた事ほどすぐに実行したくなる年頃だったからだろう。


 空っぽな部屋の奥には祭壇があり、そこには白木製の三方の上に乗った赤いキラキラとしたものが乗っている。それをめざとくアテナは見つけた。


「いただきます」


 アテナは祭壇に手を合わせると、何の躊躇いもなくその赤い物体を口にした。いつもは三方には珍しい木の実など神に供える食べ物が乗っている。それを口にしてグレーシアに怒られるのがアテナの常だった。透明でキラキラしたもの、間違いなく遠方との交易でたまに手に入る飴玉だとアテナは思った。けど、甘くない。


「ガリッ!」


 噛めば甘くなるだろうと思い、アテナはそれに歯をたてる。それは砕けて、彼女の口から赤い光の粒子がほとばしる。そしてその光がアテナを包み込む。


『我が名はアレス。荒ぶる戦いの神だ。それにしても神晶を口で砕いたものは初めてだ。我は汝、汝は我、汝が滅びる時まで共に歩もうぞ』


 アテナの頭の中に声が響くが、彼女は全く聞いていなかった。飴玉だと思ったものが違った事のショックで頭が一杯だった。


「え、アテナ、何したの?」


 息を切らしてグレーシアが現れる。


「あなた、もしかして、やっぱりアレスはアテナを選んだのね」


 グレーシアは顔を涙で崩しながらアテナを抱きしめる。


「お願い。アテナ、あなただけは私を置いていかないで!」


 抱きしめるグレーシアを優しくアテナは撫でる。


「かあちゃん、かあちゃんはアナが守る。泣いちゃだめだ」


 アテナは滑舌が悪く、自分の事をアナとしか言えない。アナはグレーシアに抱きつき訳もわからず泣きじゃくる。


 アナが口にしたものはアレスの神晶、かつて父が精霊女王から譲り受け、父の死と共にその体から分離したものだ。神晶は魂と結びつき、異界の神の力をもたらす。それは邪神に対抗するために精霊女王が異界から持ち込んだもので、戦いに身をおく宿命にとらわれるものだ。その運命に対してグレーシアは涙した。


 それからアナはアレスを宿す者として戦闘訓練に明け暮れることになる。


 そしてその5年後アナはエルフの国を後にした。



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