グラビティ・ゼロ
「なぁ、キラ、おめー竜戦士になりたかないか?」
僕の親父、ケン・シドーがラーメンと言う食べ物を食べる手を休め問いかけてくる。
ラーメンと言う食べ物はラーと言う国で食べられてる麺だと親父は宣ってる。その当時はそうなんだと信じていたけど、今ならばそれはまるっと嘘だと言うことが解る。そのくだらなさに、殺意しか湧かない。
ケン・シドー、自称世界一の竜戦士。ぼさぼさの髪にガリガリな体。無精髭は喉まで届かん勢いだ。仕事は交易商人をしてると本人は言ってたが、今の僕にはまるっと嘘だと解る。どこの誰が乞食のような恰好をしたヤツから物を買うだろうか?それに1番の疑問は母さんはこんな臭くて汚い奴のどこが良かったのだろう。僕ならこんな奴には近づかない。
グーキュルルッ!
僕のお腹の虫が鳴く。
「おう、そりゃ、腹の虫か?けど、しょうが無いな、俺の体に触れる事も出来なかったおめーが悪い。働かざるもの食うべからずという諺もあるしな。ザーと言う国の麺だったらすぐに用意できるけど、これはまだ早すぎる。お前がボーボーになってからだ」
親父はドヤ顔で僕をみる。気の利いた事を言ってやったぞ的なやつだろうか。当時は幼くて何を言ってるのか解らなかったけど、今はとりとめとなく下品な事を言ってたと言うことが解る。子供になんてこと言ってやがる、くそ親父!
「はいっ!竜戦士になりたいです!」
純でまだ汚ていない、幼い僕が答える。
その時の僕は、親父の山篭もりと言う名の児童虐待に付き合っていた。その時の僕の首にはもう封魔のロザリオがかかっていて、魔法は封じられ、木の剣や槍で四六時中いたぶられ続けた。親父からつけるように言われた腕輪には自己回復の力があり、どんなにやられてもしばらくしたら回復してしまう。無限ループだ。僕は強くなりたかった。この悪鬼を懲らしめてやるために!
「じゃ、これを持ってそこの木の上から飛べ」
親父はポケットの中から大きなお盆みたいなものを出した。ツヤツヤと黒光りしてどう見てもポケットに入る大きさじゃない。
「うげっ!ゴキブリ!」
「違うわ!ウロコだウロコ!」
僕の口から変な声が漏れる。幼い僕には親父が巨大なゴキブリを出したかのように見えた。親父ならやりかねん。
僕は巨大なゴキブリにしか見えない鱗を受け取る。どう見ても汚いものにしか見えない。
「おらとっとと行け」
親父は僕の襟をひょいと掴むと軽く僕を放る。見る見るうちに地上から離れて、木のてっぺんまでたどり着きひっかかる。親父のガリガリな腕のどこにそんな力があるのだろうか?
見下ろすと子供だったのを差し引いてもかなりの高さだった。木の枝とかで親父は見えない。
「キラ!俺を信じて飛び降りろ」
下から親父の声が聞こえる。僕は下を見てブルブル震える。親父を信じろと言う言葉は全く信用できない。僕はゴキブリ鱗を抱えて必死で木にしがみついた。
バキッ!ボギボキボキッ!
しがみついた木が傾き始める。親父、木をへし折りやがったな!
一瞬にして僕は中空に投げ出される。身の竦むような浮遊感が体を襲う。それも刹那で急加速して落下していく。僕は鱗を必死で抱きしめる。
ふわっ!
一瞬落下が止まった!これがゴキブリ鱗の力なのか?
それでも地上まではまだ高さがある。
「あべしぶっ!」
僕は顔面から地面に叩きつけられたが、何とか立ち上がれる位のダメージですんだ。
ズズーン!
木の倒れる音がする。運良く立ち上がって移動したけど、木の倒れた場所は僕が墜落した場所だ。コロス、親父コロス!
「今の感覚をつかめ。あとはどんどん飛んでものにしろ。極めればこういう事も出来る」
親父はひょいと跳び上がると空中で停止して座禅を組む。両の足の裏が上を向いたすぐにほどけない奴だ。神様にでもなったつもりか?そして、またどこからともなくラーメンを出して食べ始める。自分ばかり食いやがって!
千載一遇のチャンス!
僕はロザリオをこっそり外しポケットに入れて無詠唱で加速の魔法をかける。後で動けなくなってもいい。人の限界を超えたスピードで、僕は親父にカンチョーを放つ。
「死ねやコラァ!」
「はうっ!」
山に籠もって初めて親父に一撃与える事が出来た!
馬鹿め!空中で座禅を組むなんてカンチョーしろと言ってるようなものだ。
「痛え!オイコラくそガキィ!ぶっ殺す!」
そして、僕らは前よりも一層熱の入った修行を繰り広げた。
それから、毎日毎日来る日も来る日も、修行の合間にはゴキブリ鱗を持って飛びつづけ、ゆっくり落下、空中停止を経て、重力コントロールが出来るようになった。いつのまにか鱗なしでも出来るようになり、汚い鱗はどっかに投げ捨てた。親父とまた熱の入った修行になったのは言うまでも無い。
怪我して治るの繰り返しで、いつのまにか自動回復も体に叩き込まれて、数々の虐待を経て、全属性耐性と環境適応のスキルも手に入れた。そして晴れて竜戦士になることが出来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんな感じで必殺の『グラビティ・ゼロ』を取得したわけだよ」
なんか脱線したけど、気にしないどこう。
「ふうん、いいお父さんじゃない。子供思いの。マリーちゃんお父さんと仲良しなんだね」
どこをどう聞いたらそうなるんだろうか。まあ、ある意味仲良しと言えなくもないか。
「そういえば、この体では親父と会ってないな」
「じゃ、今度ご挨拶にいきましょ」
サリーは僕の手をきゅっと握って僕を引っ張って行く。
親父か…出来れば会いたくないな。フラグで無いことを祈りながら僕たちは歩いていった。
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