第五話 直進行軍
「グゲッ!」
「グギャッ!」
画面のリザードマンたちが明らかにおかしい。
リザードマンの表情では解らないが、多分動揺してるっぽい。
カメラが戦場を上空から捉える。明らかにリザードマンの軍の真ん中が割れている。
まるで見えない何物かが進んでいるように空白が移動している。
その空白に向かってカメラが移動する。画面の中ではどんどんリザードマンが泥の中に引きずり込まれている。泥が脈打ち槍の穂先、兜の頭が出てきて、重騎士達の上半身が現れる。重騎士達はたゆたってまるで泥土を泳いでいるかのように見える。その先頭にはギルフリード王子が現れる!
「サンドリバー重騎士団!ただ一人とて鎧を纏って泳げぬ者はなし!」
王子がカメラ目線で吠える!
『オオオオオオーッ!』
重騎士団の叫び声が響き渡る。鏡越しでも耳が痛い。
「おい、カメラ見つかってるな!おいおいおかしいだろ!あいつら何分息止めてたんだよ。明らかに身長より深い沼だよな!立ち泳ぎかよ!」
ついついつっこんでしまう!
デブ魔神も頷いてる。
重騎士団はたゆたいながら何事も無かったかのように進んでいく。立ち塞がるリザードマンをまるでないものかのように!
「おい!魔神!なんとかしろ!リザードマン全滅しちまうぞ!あいつらの望み通り水に放りこんでやれよ!水中ならリザードマンももっと戦えるだろ!」
僕は冷や汗をかきながら魔神の方を見る。
「おう!そうだな!やってみる!地殻変動湖の杖!」
また魔神はどっかからかごてごてとした杖を出してそれを掲げる。杖から出たまばゆい光が画面に吸い込まれていく。
便利な鏡だな。
遠隔攻撃もできるのか。
ぜひ欲しい!
上空にカメラが移動して、戦場を捉える。サンドリバー騎士団を中心に湖ができて、全てのものが水没していく。ぽつぽつとリザードマンが浮いてくるのが見える。
やったのか?
カメラが近づき水中を映すと、残念な事に元気に立ち泳ぎで進軍する重騎士達を映し出す。
まじか!本当に鎧着て立ち泳ぎしてる。水中から高速で襲いかかるリザードマンたちを殴りとばしながら進軍している!
次々にリザードマンが襲いかかり返り討ちにあってる!
変態だ!
変態過ぎる!
僕はここから逃げだしたくなる。このままだとやばい事になりそうな気がする。
サンドリバー重騎士団が湖の岸にさしかかるときには、もう動くリザードマンは1体もいなかった…
何事も無かったかのように、王子を先頭にサンドリバー重騎士団はただただ真っ直ぐに進軍している。僕と魔神は恐怖に顔を引きつらせた!