第十九話 大魔法使い
「次は、あたしの番ね!」
サリーが僕たちの前に立つ。その小さい体が威圧感で大きく見える。ぐるぐる眼鏡で、腕を組んでることで、ブレザーからはみ出そうな豊満な胸が強調されている。それでも、ウエストは細く、スカートから出てる足も華奢だ。ちっちゃくて繊細な体つきなのに胸がデカイ!
そのアンバランスさがいい!
「マリーちゃん!うちではもうペットは飼いません!ミノタウロスを拾ってきて、糞を撒き散らすハイエルフを拾ってきてもう十分でしょ!」
サリーは不機嫌そうに言うと、右手を突き出す。僕たちの周りを一瞬黒いもやが覆ったかに見えて、ズキッと頭が痛んだ。なんか魔法をかけられたみたいだが、何も起こらない。デバフ系か?
「えー!この虫、うちで飼いたい!乗り心地もいいよ!」
さっき癒した時に、少し凹みと角に取っ手みたいなのが出来て、僕を満足させた。カブトムシは空も飛べる。こいつに乗って大空を駆けたいものだ。
カブトムシに乗って空をとぶ!
男のロマンだ!
「マリーちゃんがそう言うなら飼ってあげたかったとこだけど、残念ながら無理よ!このガンダーフの迷宮のモンスターは部屋のガーディアン、外には出れないのよ!」
「外には出れない…」
僕はショック受ける。こいつとはここでお別れなのか?
では、せめて、ここで大暴れしよう!
僕たちの思い出に!
「では、サリー!勝負だ!せめて僕たちを楽しませてくれ!」
サリーはゆっくり歩いて来て、金カブの角をぽんぽん叩く。いたわるかのように。そして腕を組んで口を開く。
「ごめんね、マリーちゃん……戦いには相性があるでしょ、たとえば、固い虫系に対しては、その甲殻を傷つける力の無い戦士は全く無力でしょ、私たちの前にカブトムシ君と戦ってた人たちみたいに!」
サリーはギャラリーの方を見る。ギャラリーはざわめき、サリーから視線を逸らす。
「それに対して、高レベルの魔法使いはすこぶる相性がいいのよ、虫系に対して…状態異常系の魔法は精神耐性が低い虫系にはほぼ効くわ…麻痺、毒、死…」
「え、何の事いってるんだ、サリー!」
僕は薄々気づいていた。金カブが動かない!
「タッチヒール!」
僕は癒しの力を注ぎ込む。
「もう、無理よ…完全に死んでしまった者は癒やせないわ…」
金カブの体が光の粒子になり、僕は落下する。
サリーが受け止めてくれる。柔らかいし暖かい。
「しょうが無かったのよ、死の魔法…彼を倒さないと、あたしたちは閉じ込められたままだから…」
「金カブ……」
僕の視界がぼやける。泣いているのか?僕はサリーの胸に顔を埋めた。