第十八話 百手巨人を宿す女戦士
「次は、私の番ね!」
長い黒髪をなびかせて、モモさんが前にでる。プリーツスカートの下に見える足が長くて綺麗だ。制服がよく似合っている。場違いだけど…
アナはサリーに隅に撤去されている。これで十分に戦える!
「行け!金カブ!ぶちかましだ!」
金カブはモモさんに角を突き出し体当たりをかます。
「タイタン・ハンズ!」
モモさんの前方に、大きな石みたいな材質の左右の手のひらが現れ、角を掴む!
金カブが押すがびくともしない!
金カブの足がガリガリと地面をかく!
「おっと!」
金カブが傾き、僕は必死でしがみつく。前をみると、角をもって、巨人の手が金カブを持ち上げている!
モモさんは足を開き大地をしっかり踏みしめている。
「とうりゃ!」
モモさんの掛け声と共に金カブは放り投げられる!
「あぶねー」
僕は必死で金カブのつるつるした角にしがみつく。滑りそうだ。
金カブは背中から地面に落ち、僕はあと少しで振り落とされて、下敷きになるところだった。
金カブは羽で地面を押してくるりと回って六本の足で立つ。
「モモさん、危ないじゃないか!」
僕はモモさんを軽く睨む。
「あたしは虫が大っ嫌い!それに乗ってるマリーちゃんも大っ嫌いよー!」
モモさんは駆け寄り、巨人の手で金カブを殴りつける。
ゴウッ!
重たい音がするが、少し揺れただけだ!
「マリーちゃん!許さない!」
「違うって、僕はただ上から観戦してるだけだって!」
「言い訳は聞きたくないわ!」
モモさんはがんがん殴るが、全く効かない!
さすが虫の王様だ!
「虫なんて大っ嫌い!」
モモさんは仁王立ちになり、腰に拳をあてた、空手の様な構えを取る。モモさんからとてつもない力を感じる!
長い髪が全て逆立つ!
もしかして巨人化するのか?
「ふぅ、危なかったわ、もう少しで巨人になってお姉様にお仕置きされるとこだったわ」
モモさんは肩で息をしている。なんとかこらえたらしい。
「けど、虫は嫌いよ!ハンズ・オブ・ヘカトンケイル!」
モモさんは目を閉じて、僕らの方に跳んでくる。無数の巨人の手が現れて、金カブを殴りまくる!
僕は角の陰に隠れしがみつく。やべ、くらったら、ただでは済まない!
ドガガガ!
バキッ!
ミシッ!
ブチッ……
終わることない、工事現場のような喧騒の後、あたりは静寂につつまれた。
「はぁ!はぁ!」
ただ、モモさんの荒い息づかいのみが聞こえる。
後ろのギャラリーも無言だ。
僕の金カブは、全ての足を叩き潰され、全身ボコボコで、自慢の角も根元からポッキリ折れている。片方の目も光を失っている!
「これで、終わりよ!」
モモさんが金カブの正面に立つ!
数多の巨人の手が彼女を囲む!
僕の頭の中に金カブとの思い出が浮かぶ。あ、ただ乗っただけか。けどこれに乗って草原とかを駆け抜けたいな。お尻痛いから鞍は欲しいけど。贅沢言えば取っ手も。
「タッチヒール・マキシマム!」
僕の角を握ってる手から癒しの光を金カブに流し込む。みるみる金カブの傷が治癒していく。
「させないわ!ハンズ・オブ・ヘカトンケイル!エターナル・アタック!」
巨人の手がエンドレスに金カブを殴り破壊する!
僕の癒しの力が金カブを治し続ける!
モモさんの破壊の力と僕の癒しの力の強い方が勝つ!
ぷじゅっ!
汚い音を立てて、金カブの治癒中の角から白い体液がモモさんの頭からかかる!
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!」
モモさんの甲高い悲鳴があたりを切り裂く!
「虫!虫のしるーー!」
モモさんは涙ぐみ後ろを向くと一目散に駆けて行った!
かくして、黄金認識標の冒険者、黒騎士モモは金色のカブトムシに敗れ去った。かろうじてだけど、これで連勝!