第十六話 遅れて来た英雄
ガシッ!!
杖が振り下ろされるのを避ける事も出来ず、僕は目を瞑ってしゃがみ込む。
ん、痛くない?
おずおず目を開けると、僕に背を向け、杖を左手で受けてる者が…
「王子様、何、女の子いじめしてるんだ」
僕の方にチラリと振り返り、歯を光らせる。
アルス、石像になったはずのアルスだ!
「おおっと!乱入者だ!最近姿を見せなかった、高等部1年G組の問題児、アルス・ペンドラゴンだー!」
サリーが、また、魔道具で話し始める。アルスも学園に所属してたんだ。
「野良犬!何をしにきた。勝負の邪魔をする気か?」
「何が勝負だ!か弱い綺麗な女の子がお前の敵なのか?この勝負、俺が引き受ける。馬鹿王子かかってこい!」
「勝負?何を言ってる。貴様が俺に勝った事があるのか?蹂躙だ!王族を侮辱した事を後悔させてやろう!そして、彼女は俺がいただく!」
王子が構える。
「わかった!勝った方が彼女を手に入れる!その勝負受けてやろう!」
あれ、僕はキラが変身したマリーという設定は何処に行った?
なんか景品にされてるし!
「おおっと!ここで選手交代です。ギル王子、アルスの二人でマリーちゃんを巡って争う事に!」
サリーも設定忘れてるね!
僕は腰が抜けてるので、サリーにお姫様抱っこしてもらって、リングを降りる。サリーの影にひそんでいたシェイドの部屋に入って高速着替えして、現れる。皆リングに夢中で、気づいた人は少ないはず。それに魔法学園だしなんでもアリだよね!
「アルス!呪いはどうしたんだ?」
回復した僕はアルスのそばのリングサイドに駆け寄る。
「愛の前には、呪いなんて無力なものさ」
アルスが歯を光らせて答える。全身を鳥肌が包み込む。
そうだ!
忘れてたこいつは変態超人だ!
言ってる事訳分からんが常識は通用しないはずだ。王子は嫌だが、こいつはもっと嫌だ、底が見えない!
「アルス!」
「どうした、俺を応援してくれるのか?」
髪など掻き上げてやがる!
「下は脱ぐなよ!あと、負けちまえー!!」
僕は王子の方のリングサイドに走って行く!
「王子様!お願いです。あいつをやっつけて下さい!あいつは、かなり強くなってます!全力でお願いします」
僕は涙を浮かべて、哀願する。こっちの方がなんぼかまともな気がする。王子だから、リッチそうだし!
「おおっと!マリー!自分を助けてくれたアルスではなく、ギル王子を応援している!言っても女の子、プリンスと言う肩書きに惹かれたのかー!」
サリーが拡声魔道具で余計な事を言う。なんか悪女みたいじゃないか!
「しょうがない!野良犬ごときには過分だが、本気で相手するとしよう!」
王子が右手を突き上げる。
「ドレス!来い神槍サンドリバー!」
王子の体を光が包み、それが物質化して鎧となる。遠くから光るものが飛来して、王子の手に収まる。光り輝く水色のランスだ。
水色の重厚な全身鎧に身を包み、同じ色のランスを手にしている。
「おおっと!サンドリバー名物、重騎士化だ!あと、王族のみ使う事が許される神槍サンドリバーだー!」
サリーがハイテンションで解説する。楽しんでるな。
「準備はいいか!かかってこい!」
アルスはただ仁王立ちだ。構えは不要ということか?
「全身全霊をもって、貴様を倒す!」
王子はランスをアルスに向ける。
「では、試合開始ーッ!」
サリーの声が高らかに響く!