第二話 寺院のシスターリナ
「うぎゃぎゃー!」
僕の胸を見て卑猥な事をほざきやがったきったねーおっさんに、ベルの抱いたギルティ君の光線が突き刺さる。
牛男が威嚇してるのにもかかわらず、馬鹿が次から次にのべつまくなし発生する。
もうやだ!
宿屋のにーちゃんが言ってた事が身に染みる…
「ところで、牛男ってそんなに強いのに、なんでマリーに下克上しないのかしら?牛男がマリーご主人になるべきよ!」
ベルが牛男に話しかける。もっと言葉を選べロリエルフ!
牛男が馴れ初めの一部始終をみっちり話す。
若干美化されてる…
牛男はさめざめと涙を流す。
泣くな!
泣くな!
「お前は僕のものだ牛男!一生添い遂げてやる!死ぬなー手を取れー!」
ベルが嬉しそうに茶番する。
少し違う!
なんかむかつく!
「ベルも今度つかおっ!お前はベルのものだマリー、手を取れー!」
そう言ってベルは僕の手を離して僕に手を差し出す。
僕はベルの手を取り、引き寄せて胸にベルを埋める。
そして耳元で囁く。
「大丈夫っ!マリーはもうベルちゃんものですよ!」
離すとベルは真っ赤になってた。
攻められるとめっちゃ弱いな!
とどめにもう一回ぎゅーすると、もうポンコツになってた!
チョロいチョロい!
そうこうしながら歩いていくと、ボロボロな家しかないエリアに入る。たまに見る人もガリガリだ。貧困層の住むエリアなのだろう。その家さえもまばらになり、その端の所に崩れかけた廃墟のような寺院を見つける。
「マリーちゃん、大丈夫かしら、寺院と言うよりも、お墓みたいなんだけど…」
朽ちた柵で囲まれていて、枯れた木が生えてる。ここら辺では基本的に大きめの建物は壁が所々崩れ落ちている。
「こんにちは!誰かいませんかー!」
僕は明るく大声で呼んでみる。
何もない。
もう一度呼んでみる。
キキーッ!!
不快な音を出しながら、扉が開き、そこには修道服を纏った女性が立っていた。
「どなたでしょうか?こんな辺鄙な所になんの用ですか?」
消え入るようなか細い声だ。ひどく痩せている。ガリガリで、頬骨が浮き出て骸骨みたいだ。元は端正な顔だと思われるのに。
仮面女子二人と牛面では、警戒するのは当たり前だろう。僕は仮面を取る。
「アルスさんに頼まれて来ました」
僕は、笑顔で話す。そして、ドングリのネックレスを見せる。
「アルス、そうですか、こちらへどうぞ…」
僕たちは建物の中に入る。中は外見よりも造りはしっかりしてて、その奥の部屋に案内される。修道服の女性は足が悪いのか杖をついていて、杖で床を叩く音が建物に響く。
どこからか、子供のすすり泣く声が聞こえる。
正直ホラーだ。
ベルが僕にぎゅっとしがみつく。
部屋に入りテーブルにつく。
危険なしと判断して、牛男アックスを収納にしまう。
女性は驚きの顔で僕をみる。
「私の名前はシスターリナ、ここの孤児院を運営してました」
シスターに、僕らも名乗る。
「こちらは、アルスからです、シスターに渡す様にと…」
僕は、お金の入った袋を収納から出して渡す。
「ありがとうございます。ああ、アルスありがとう!これでしばらくみんなを養えます」
シスターはか細い声でそういうと、祈りを軽く捧げる。
「アルスはこの孤児院の出身で、定期的に私達にお金を持ってきてくれるのですよ。ここの孤児院は基本的に時給自足で成り立ってたのですが、ここしばらくの大干ばつで食料もままならなくて、とても助かります」
シスターはかすかに微笑む。
バタン!
扉があく、そこには幾人かの痩せこけた子供たちがいた。
「シスター、お腹すいた!」
小さい女の子が呟く。
「お客様が来られてるのですよ、隣で大人しくしてて、グレン、これでみんなに食べものを買ってきて!」
グレンと呼ばれた、中では背の高い子供がお金を受け取る。
「あ、アルス兄ちゃんにあげた首飾り、アルス兄ちゃんはどこいるの?」
小さい女の子が、僕のネックレスを指差す。
「アルスは遠い所に今はいる。けど、きっと帰って来るから…」
僕の頬を涙がつたう。
あいつは馬鹿なのか!
背負うものがあるのに、僕の為に命をかけて、僕らの代わりに石になって…
「みんな、大事なお話中だから今は出て行ってね」
シスターが優しく言うと子供達は出て行った。
「すみません、しつけがなってなくて。それより、アルスはどうしたのですか?」
僕は一部始終を包み隠さず話す。
「アルス…………そうですか…」
しばらく誰も話さない。
「私とアルスは兄妹で、私もよくアルスに助けられたものです。あなた方のような美しい女性のお役に立てたのなら、アルスも兄も本望でしょう。これを届けてありがとうございました。また、なにかありましたら、いらっしゃって下さい…」
シスターは頭を下げる。まだ、アルスに渡そうと思ってたお金はある。けど、それを渡しても一時しのぎにしかならないだろう。
「シスター、失礼だが、これからどうするのか?」
僕は問う。アルスに借りはあるし、彼女次第では力になろう。
「私は、身売りする算段がついてます。今はこうですが、もう少し肉がついていた時にはそこそこの器量でしたので、ある程度のお金にはなりました。あとはグレン、先ほどの子ですが、あの子は賢いのでなんとかなると思います…」
シスターは目を伏せる。
「あんた、子供だけで生きていかせるつもりなのか?自分たちで生計をたてる方法はないのか?」
僕は冷静に尋ねる。
「今まで、なんとか色々してやりくりしてきたのですが、もう、本当になにもないのです。水もないし、食べものもないし、みんなかろうじて動ける位です。私も足が不自由だし、まずはその場しのぎでも何か食べものを買わないと、みんな死んでしまいます…」
シスターが掠れ掠れ話す。
「水、食料、衰弱、足、これを全て解決したら、あんたはどうする?」
僕はシスターの目をじっと見る。
「当然、この孤児院の再建に尽力しますわ!」
僕がこの孤児院をアルスみたいに養うのは簡単だ。けどそれでは僕がいなくなったら終わってしまう。結局自己満足でしかない。
やるからには徹底的!
ここが独立採算合うようにするのが、一番の恩返しだろう。
僕は、ベルの方を向く。ベルは頷く。ベルは立ち上がって呪文を唱える。
「まずは、太るのかしら!グラトニー!」
ベルの指先から出た白い光がシスターに吸い込まれる!