第5話「旅人の街カルセティオ」
森を抜けて見えたのは、塀に囲まれた大きな街。
まだ少し距離はあるものの、そこまで遠くはなさそうだった。
空を見てみると僅かに赤みがかっており、もうすぐ日が沈むのだと分かる。
「この調子なら間に合うわ、早く行きましょう。」
「は、はい!」
急かされるように足を早める。
向かう先は入口であろう大きな門。
モンスターが入れないようにするためか、門はしっかりと閉められてしまっていた。
辿り着いて早々、リリアは横に佇む門番へと声をかける。
「はっ」と敬礼をした彼は手に持つ槍の柄を地面へと突き当て、音を鳴らした。
その音が合図になっていたのだろうか、大きな門が音を立てて開かれていく。
「ようこそ旅人様!旅人の街、カルセティオへ!」
声に押されるがまま、中へと足を踏み入れる。
………そこは人で溢れていた。
旅人のような衣装を着た人が殆どと、様々なお店の人達。
店の中には道具や武器、防具の他にも雑貨屋だったり家具や小物を扱うものもあるなど、割と本格的だ。
「まずはその格好を何とかしないとね」
そう言われ、自分の服を見る。何一つ変わらない制服。セーラー服。
…しかし、周囲の服装を見れば確かに浮いているように見えてしまう。
「こっちに良い服屋があったはずよ、案内するわ」
リリアに言われるがまま、服屋へとたどり着く。布製の服が多く並んでおり、ポーチやマフラー、ベルトなど小物も揃えられているようだ。
「好きなものを選びなさい…って言っても、服のセンスに自信はある?」
「う…それは、その…」
情けない話、自分はオシャレというものには程遠い生活を送ってきていた。
それが異世界のファッションともなれば余計に分かるはずもなく。
…ここは大人しく彼女に任せるのが懸命だろう…
「なるほど、じゃあいい感じのを見繕ってあげる。…耐久性も必要だし…」
何やらボソボソと呟きながら、彼女は私へと選んだ服をどんどん渡し、積み重ねていく。
…地味に重い。腕が疲れる。
そんなこともお構いなく、今度は試着することすらなくお会計だ。
…本当にこんなので大丈夫なのだろうかと不安が募るものの、この世界について知っていることでは彼女の方が遥かに上をゆく。
恐らく…大丈夫だろう…今は信じるしかない。
そんなこんなしていると、会計が終わったらしく値札が外された服をどっさりと渡される。
「あそこで着替えて来なさい。元の服も忘れないようにね」
そう言って試着室であろう場所を指さすリリア。
色々順番が逆なような気もするが、もしかしたらこれがこの世界の当たり前なのかもしれない。
言われた通り試着室に入り、セーラー服を脱ぎ、買った服を着ようとして…随分戸惑った。
なにしろどう着ればいいのか分からないものばかりなのだ。
これはスカートだろう。これは…最初に着るのか?
ベルトの結び方はどうするんだ、これはどこに留めれば──
───なんて事をやっていると、途中でリリアが加勢に来てくれ、どうにかこうにか着ることが出来た。
髪の色と合わせたのだろうか、淡い緑を基調としたフード付きのローブを主体に小さなポーチなどを着けた、いかにも旅人のようなコーディネートだ。ついでに髪も整えてみた。
自分で言うのもなんだが、中々様になっているのではないだろうか?
「これでよし。次は家だけど…私が持ってて使ってない家があるわ。そこにしましょ」
「家まで用意してくれるんですか!?」
「色々と準備したいし、なんというか…いや、これは後で話すわ。こっちよ」
歯切れの悪い返事に首を傾げつつ、彼女の後を追う。
少し裏道に入ってすぐ、二階建ての家の前に着いた。
「友人に手入れは任せてたからそこまで汚れてはいないと思うわ」
そう言いながら、彼女は扉を開ける──
「………あ」
「あら」
…その部屋の中央には、女性が一人。
濡れた布巾を絞っていい汗を流していたところだった。