序章「それはあまりに唐突で」
いつも通り朝起きて、
いつも通り学校に向かい、
いつも通り授業を受けて、
いつも通り帰り道を往く。
そして私は今日も、いつも通り家に帰り、眠るのだ。
そんな当たり前の日常。
同じことの繰り返し。
それに不満があるわけでもないし、むしろ私、柊 紫音はこの日常が好きなのだ。
別に事件なんて起きなくていい、事故になんて巻き込まれたくない。
異変なんて、何も望まない。
帰ったらまたゲームをして、SNSを覗いて、ネット小説を読んで、家族や友人とくだらない話で笑って…
私はそんな「日常」を愛している。
それに飽きてしまったと言うのならば、新しいことを始めてみればいい。
絵を描く、新しいゲームをする、本を読む、テレビを見る、運動をする、何かを作ってみる。
そんなたった一つの、いつもと違う行動をしてみるだけで、毎日はまた新鮮に生まれ変わる。
「非日常」なんて、行動一つで得られるものなのだ。
…とは言ったものの、私にはこれといった取り柄が無い。
何かを作ろうとしたとして、きっと人並み以上には出来るだろう。
けれど、それまでだ。
それ以上は、私には存在しない。それで誰かの役に立つなんてもってのほかだ。
私には「非日常」を極めることなんてできない。
きっと、それが"私"なのだろう。
十数年生きてきて、私が出した結論。
それがあまりに早すぎる結論だとは分かっているが、それでも自分に何か、突出した才能があるとは思えない。
とまぁ、そんなくだらないことを考えながら。
いつものように電車を待つ。
帰ったら途中だったゲームでもしようか。
ちょうどレベル上げを終えて先に進もうと思っていたところだったはず。
後はもう────
───ドンッ。
…それはあまりにも唐突で、思考が追いつかなかった。
背中から強い衝撃を感じ、体が宙に浮く感覚がする。
電車が迫る音。
次に来るのは急行列車だったっけ。
この駅を、通り過ぎて───
最後に見えたのは、フードを被った人影と、
真っ赤に染まる空だった。