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鏡像迷宮 31

 夜気の底で、すべりこんだ部屋は、赤かった。

 昂揚をいざなう仕掛けなのか。

 蕃神にささぐ焔のごとく、壁紙は淫靡に赤い。

 あるいは禁断の実の、果皮さながら。

 そうして、あらわにした肌は白い。

 下ろした髪は(あで)やかでした。

 それは亜麻色の後光(ハロ)に見えます。

 しかし僕の気持ちは真っ青に沈んでいました。


 …()()まで漕ぎ着けた方法については、割愛いたしましょう。アルコールの薬理作用は大脳の前頭葉をマヒさせる。そう言えばコト足りましょう。


 僕と彼女は幻想郷(ファンタジア)でさまざまの話をした。


 …(ロゴス)を用いずに、話した。



 ***



 皮膚と皮膚のあいだに神経を漂わせていたら、その不可視な蜥蜴(とかげ)のような僕の触覚は、不意に違和の手ざわりを探り当てた。

 盲目のままに確かめる。

 純白な左脚の上部。そこに触れた、かすかな引き攣れ。


「これは?」

「傷。むかし、車で事故を起こしたの」


 なにか不吉な予覚が、僕のなかにドス黒い(ブッシュ)として生い茂る。血管内をながれる血は、赤い硝子粉(がらす)ほどザラザラになる。


「ねえ、見てご覧」


 彼女は左脚を僕にさらした。


 どことなくデジャヴを催させる古傷。そこはちょうど、あの小さな人形、(メグミ)のそれと同じ部位。


 大腿部のなかほどに、ぐるり(わだち)を刻む瘢痕。


 彼女はただ艶冶(えんや)にほほ笑んでいる。



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