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鏡像迷宮 30

 …怪談としてのオチが付いたような、付いていないような。さしずめ、どっとはらい、で幕を引くところでしょうか。


 …が。


 …まだ少し、語ることがあるのです。


 …あれから幾日か。ノンダクレの僕は、さしもの符合だってグウゼンの一致だろう、位に良い加減にして、現実の前を右往左往していました。


 当たり前です。リアルはステージではない。たとい台本のセリフでミッチリ固められたハムレットが幽霊に出会い、大見栄を切ろうとも、演台の下の僕たちには見栄なんて切るヒマはないのですから。幽霊が出ようがハラは減る。霊験あらたかなオフダをかざそうと、銀行口座の引き落としは待ってくれない。


 僕は当たり前に過ごし、あいもかわらず鼻先のニンジンに悶々していました。あれだけ物笑いのタネなされたと言うのに。


 僕ごときが言うのも益体(やくたい)ナシですけれど、どんな女性も妖婦だし、どんな男もアワレな愚者なんでしょうね。


 …さあ。その日。


 今更ながらに職員同士の連絡網を見直そうということになりました。場末の病院ですから、ひとの入れ替わりが激しい。もう、とうに辞めたスタッフとかがヘイキで載っていたりするのでした。


 そうして。整理していくと、こうなりました。


「葉山クン、連絡網で次だからさ、携帯の番号、教えてよ」


 と、夢野さん。


 勿論、スマホではなくガラケーの時代です。ラインではなくてメール。


 例の休憩室でパカリとモバイルを開いてくれました。それはルビー色で、火光(かぎろい)みたいに輝くのです。


 さて内心、僥倖に北叟(ほくそ)えみながら、携帯番号(ケーバン)を交換する僕…、


 嗚呼。


 …僕は前に伏せていることがあると述べましたね。大きなウソを、このお話の中に隠していると。


 自白いたしましょう。


 僕はウソを()いていました。たしかに。


 僕は。余所(よそ)の庭を飾る花、その花に触れていないと。


 そう言っていましたね。


 それは、嘘です。真っ赤な嘘でした。



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