鏡像迷宮 26
…サテ。
ここで、ひとつ。断っておかなくてはならないコトがあるのですよね。
実は今までのお話の中で、僕は大きなウソを吐いているのでした。
…それはドコでしょうか。
…まあ、もともとアルコール依存症者のモノローグでしかない、このお話。空想に空想を塗り重ねた妄言ではある。だから、どこが虚だろうと実だろうと、どうでも良いようなハナシなんですが。
どうでも良いとは言え、それは禁忌の匂いがする事象ではある。だから糊塗した上でお話を進めて参りましたが、どうしても触れざるを得ないのかもしれない。
それはもうジキに明らかにしようと思います。
…さておいて。
「鏡の中に不快なものが見えるようになったのは、建の死後。それは、私のようで私じゃないもの」
虚空に舞う、むなしい言の葉。うつろな暗黒の中、夢野さんは誰に話しかけているのでしょうか。もはや。僕にではあるまい。
僕の背後に在る、あの鏡に話しかけているのでした。
「裸の女の人のような。でも、人間ではなくて、象のようでもある…、こういう風に」
僕は夢野さんが発狂したのだと感じました。あの美しい、観音さまみたいな美貌の前で手をヒラヒラかざし、あどけない童女がそうする具合にして。
ながい鼻をかたどり、動物のゾウの形態模写を演じるのでした。
…けれど。僕はそのアリサマを馬鹿馬鹿しいとも、不気味だとも思いませんでした。
既視感。それを感じた。
どこか神聖さすら伴う静寂と。
熱にうかされたかのごとき、浮遊感。
嗚呼。
…僕は、やっぱり出会っていたんですね。
あの日、ホテルで。夢野さんに。




