表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

鏡像迷宮 25

 いや、たしかにカサンドラでした。カサンドラ以外の何者だと言うのでしょう。


 ピタリと。


 ()()()()()()()()()


 僕の背の、文身(イレズミ)の図柄をまで言いあてた彼女を。


「息子の刺青と似た絵なんだ、葉山クンのセナカの絵」


 そう、クスクスと。()まめかしいように笑うのです。


「建さん、中学生だったのでは…、彫り物を入れてるなんてハズが…」


「いいえ、()()なってからね、消耗するのかしら、中学生というのに、おどろく位、老けてしまった。成人式を通りこした大人みたいに見えたわ。からだ其の物も(ふく)れあがるみたいに逞ましくなったし…。ホルモン・バランスが異常になったのかもしれない。GH分泌量過多であるとか。そう考えると、やっぱり内分泌系の疾患だったのかしら…」


 でも、採血(ラボ)データには出なかったんだけど、と付言します。


 まるで大人のような身体をそなえた彼は、ある日突然、彫り物を背負って帰ってきたのだと言う。

 勿論、関東彫(かんとうぼり)などは、短期に彫りきれるモノではありません。

 僕の場合はヌキといってキャラクターだけを彫り抜いており、いわゆる()()()()()()()を醸すガクという紋様の密生をまとうてはいないのですが、それでも二年は掛かりました。

 建さんの場合には、スジ、つまりアウトラインが彫られたくらいだったそうです。


 嘘のようなハナシです。担がれているのかもしれません。しかし、なにゆえに。僕は頭がグルグルとしました。


「なんで分かるか、解る? 葉山クンの背中のことなんて。まるで見てきたみたいに」


 なんとなく日本語の構文としてオカシな問いかけでした。それだけにシチュエーションの異様さが際立ちます…、

 …妖女のような憧憬の美姫(びき)。彼女はそうして、タネ明かしをするのでした。


「それは本当に見たからなのよ、夢で見たの。鏡の夢の中で。ねえ、葉山クン」


 タネ明かしされた予言。それはやっぱり()()()()()()()()()理解しえない錯語(ジャーゴン)なのでしたが。意味を汲もうとしても、汲みがたいのです。


 ひと心地ついた、というふうに呼吸をゆるめた夢野さんの声は、再び平静なものへと転じました。


「ねえ、葉山クン。キミはね、建にソックリなのよね。初めから思っていた。顔も話し方もソックリで、私は死霊やマボロシを見たのかと思った。キミが病棟に配属されてきたとき、思ったの」


 輪廻。そんな話を、目の前の(ひと)はしているのでしょうか。マトモではない。


「建はよく言ったの。譫言(うわごと)みたいなものかと当時は思っていたけどね。こう言ったわ」


 シンとした()


 永遠に近い長さの一秒間。


「お母さんもいつか、鏡の中が見えるようになるよ、って」


 美女は嫣然(えんぜん)とほほ笑むのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ