鏡像迷宮 24
「まるでビリー・ミリガンやジキルとハイド」
そうしてチグハグに鏤められたモンタージュ・ポートレイトでありピカソの絵画、そう評しました。僕の憧れた人妻は…、
…すでに亡くなった御自身の令息を。いや、彼の自我を。
「猫の目、山の天気。一日のうち、一時間くらいは私の知る建に戻るんだけど、あとは鏡を手にしていた。あの世が見えるとも、異次元とも、未来とも言っていたけどね、一心に覗いていたわ」
深い息を吐き、そうしてタバコを咥えるような仕草をしました。
それまでもその後も、夢野さんがタバコを喫うところを見たことはないのですが。
しかし、その折ばかりはそんなムーヴマンを発露したのを妙に鮮明に記憶している。
あるいは試練の時期、この気の毒な女性は一時的な喫煙習慣を得ていたのかもしれない。うずきだした古傷かのごとく、それは肉体に再生されるのか。
「最後には」
掠れた声。声がまとうホワイトノイズ。
「死んでしまったわ、恋人と同じように鏡を食べてね」
ミイラが口を利くとするなら、そんな声を出すのでしょうか。いともヒビ割れた、水分を含まぬ声。
停電より十数分。そんな微々たる間に、僕の好きだった女性は幾年も、いや幾千年も齢を経てしまったように感ぜられた。
それにそれは光線の加減なのか。
密室のブラックホールと化した休憩室のくらさ故か。
…夢野さんの髪は、霜降の白いモノへと。
…転じたように僕には見えたんですよね。
白髪の女性は続けるのでした…、
「キミ、背中に刺青があるでしょう」…、
…と。




