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鏡像迷宮 20

もはや自己満足なのですが、投下させて頂きますね。

 便宜上、建君(建さん、と(ひょう)すべきでしょうが、文脈上の時制に沿い、こうしておきます)の自称・恋人の少女。彼女に名を付与しておきましょうか。


 彼女はミドリと言います。(ろう)たけた少女で、大人びていた。私服で街を流すと、大学生にも声を掛けられたと言います。いや大学生だと思われたのでしょうしね。ピアスもしていたし、うっすら髪に色も入れていた。身長も百六十後半。見栄えがした。


 …ミドリはシンプルな少女でした。


 きっと。プネウマの息吹(いきふ)きのまんまに行動するので、オトナから誤解をされるタイプの子だったのではないでしょうか。


 だからこそ、逆に。イビツに内向・内攻してしまって、そんなに自己破壊衝動に身をまかせる性分には見えなかったのですが…、


 建君が調子を崩しだす少し前、夏休みに入る二週間くらい以前から、登校しなくなったそうでした。


 理由はよく分からない。仄聞(そくぶん)のような手掛かりしかない。


 夢野さんもジカに顔を見に行くほどの間柄ではないのでしたし、夏休みが明けると、彼女は転校してしまったという話だけがモットモらしく流布(るふ)して、たしかに本当に学校に籍は無くなっていたようですから、いまでも(つまび)らかな所は分からない。


 …けれども。


 転校してしまった、という話以上に信憑性を備えていたのは、職場での噂でした。


 思い出して頂きたいのですが、夢野さんは精神科医療に携わっております。業界は一般の方々が考えておられるよりもズッと狭いもので、わりにツテが生きていたりします。ツテはヒソヒソと口もききますしね。個人情報保護とは言われますが、人の口に戸は立てられないと言うのもまた真です。


 そうして、さる病院の児童精神科病棟に、彼女らしい少女が入院してきたのを耳にしたのですね。


 エンピリックな印象ですが。児童精神科の患者様というのは、そうそう激しい幻覚妄想状態に陥っていたりはしません。フロイトやユングの時代なみに多彩なヒステリー症状を漲らせているわけでもない。


 …けれども。


 ミドリは異例といえるくらい熾烈な症状を呈していました。


 まず、鏡を()らうのですね。


 大学生にも映るほどの少女ですから、もはや芳紀(ほうき)という形容が似合う彼女。まあ美少女です。


 その美少女が、割れた鏡の破片やら。汚物やら。はては生きた(むし)もむさぼるのだと聞きます。


 言葉も解さなくなってしまったようでした。


 とうぜん一般床では過ごせないので、隔離室(ゼレ)に入室していました。鏡は勿論、トイレットペーパーすら、いっさいの事物を排除した部屋にて過ごしていたようです。


 ちなみに児童精神科領域では隔離室という語句を自省室と婉曲したりしますが、まさに隔離という表現が意味を帯びてくる容態です。




 …続きます。

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