鏡像迷宮 2
怪異譚の続きをいたしますね。ブツ切りで相済みません。
「足?」
「そう、車のトランクから」
「どこで?」
「神社。こう、逆さ向きで、盛られたバナナみてえな感じでさ」
柳沢が、きわめて奇態な話をしました。ロードサイド・ショップのマクドナルドだか何かで、二人で腹ごしらえしていた折のことです。
つねながら、幽体離脱だのなんだのを話す男ですからね。話半分に聞きましたし、この時はまだ本気にはしていませんでしたが。まあ、しかし奇妙な話です。
コーラを入れたペラペラのコップをテーブルに置き、空を眺め、歌うような口調。
中身の魔訶不思議さとは裏腹、シレッとしている。
大ぶりなウィンドウの外には銀の雨が降っています。例によってウォーキングと称して、あてどなくフラつき、やがて空が機嫌を悪くしだしたので、雨宿りしていたんですよね。
そこで、ふっと、最近、変わったものを見た、と切り出した話は、確かに変わっているし、また不気味でした。
こういうことです。
真夜中。
柳沢のヤツがひとりっきり、自転車で裏道を通ると、車が停められているのに出会った。路肩駐車している車。運転席は無人に見えた。だがトランクは開いていた。そこまでは何の変哲もないが、トランクからはみ出し聳えているものを認め、目を丸くした。
トランクひとつぶんの、狭小な闇。そのポッカリした暗黒から、白いものが伸びていた。天に向かって佇立していたのだ。それはシラジラ月光を帯び、抜き身の刃物さながらに輝く。
人間の、たぶん女の、裸の足だった。
怪異きわまりなし。幻覚だろうか。到底、人ひとり、そんなシンクロナイズド・スイミングみたいな格好で収まるようなスペースではないのに…、
僕らの地元は片田舎で、道をすこし入ると、樹陰と日陰にいろどられ、ハンパな暗さを残したような、微妙に気味の悪い通りがあったりします。特に、生活圏内に大きな古い神社があるんですけれど、そのあたりは殊更に不気味。そこで見たんだと言います。
そもそも、山は多いし、川も多い。田舎式の風景の地続きとして、居住区や住宅街もある種の風情に蚕食されている。初期の泉鏡花とか、水木しげる先生あたりが好んで描きそうな、一種、陰の叙情みたいなものをたっぷり湛えているんですね。
…すこし話は逸れますが、僕の地元というのは、一つの町という規模で区切れば、世界でも珍しいくらい精神科病院の数を擁するところなんですよね。いずれ、お話すると思いますが、僕は長くそうした病院に勤めました。また逆に入院もいたしました。閑話休題…、
いったん、筆を置きますね。われながら書き手としてのバイタリティは呆れるくらい欠如しています。もう息切れしてしまいました。また、すぐに続きを書かせていただきます。