鏡像迷宮 13
マイペースに書いております。
べつだん人形の背に歪んだ鏡文字で、オマエノ後ロヲ見ロ、と刻んであるわけでもない。その亜麻色した髪が人毛だった、という安っぽい都市伝説的なオチもない。
小さな彼女は至って寡黙なものです。ものいわぬ傀儡。たんに。
僕はそれを拾い、月に翳しました。つまり葉山尊の茶色い虹彩それから瞳孔に、月光のハロ、人形の影が、スンと浸みいります。
それはいかような意味も反響しない。無意味きわまりない芥でしかない。ただ形は女のすがたをしていたから、僕はなんだか人妻のことを思った。この程度の真理かもしれないと思った。はりつめた気持ちもファルスも糠に釘なんだろうと、そう思いました。
はっは、と人間のカラダをした猿のように僕は笑い、マウンテン・パーカーのポッケに人形を押し込みました。
夜空からか地獄からか。その壊れた小人をイズコかから遣わされた天恵・天啓の使徒と感じましたから、僕は。
恵、と、そう彼女を命名したんですね。
…そうして恵を自宅に連れかえると、エス・エムもののアダルトDVDやら、ジンの酒瓶やらがさんざめく本棚へ、彼女をツイィと納めました。
まあ、狂っています。
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僕はしばらく恵を眺め暮らしました。そうすることで、道ならぬ恋着を抑止できると考えたからでした。
が、勿論、人の感情は観葉植物でないので、仕事場にいけば彼女がいることにおののくのでしたし、鼻のさきのニンジンに心理的距離を置くのには厳しい修練が必要そうでした。
そんな中、あの停電の日が訪れたんですよね。
…臆面もなく、ダラダラ続きますね。




