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鏡像迷宮 11
物語の中には月が出て、まさに凹面的世界でしょうか。
鬱っぽかったようですね。幻視やら片恋やらの後遺症でしょうか。
ここ数日間、神経がギラついていました。生活全般が黙示録ほど不穏な殻を被っていました。目にするものは刺々しい。耳にすることは囂しい。
だけれど夜道をひとりで歩いていると、殻がぬけて落ち、上がっていたギアも落ち、落ち着いてきた気はします。
黙って、落ち着いて、深閑とした町をゆきます。その背中に月がいつまでも付いてくる、付いてくる。
月光が照らす朽ちた板塀には、いくまいも角大師の札が貼ってある。ツノの生えた奇怪な姿のアイコン。柳沢の言っていた、悪魔というのを思い出す。
ほどなく、神社にたどり着きました。
手前に引かれた、狭い、狭い、通り。そこに、たしかに停車中の車があります…、
…トランクは別に開いていない。
盲滅法、暗いなかに黒い車が、停まっていました。
…慎んで、続きます。