鏡像迷宮 1
さて。第一のお話は僕が若い頃に触れた現象。考えてみると、僕は怪異にそこそこ遭遇しているようです。
訥々と書くのが好きです。と言いますか、僕にはマトモな文章作法もスキルもありませんから、そのようにしか能わず、自然、スケッチ風の文体が肌に合うのでしょう。
せっかく「なろう」にアカウントを作りましたので、自慰的であれ、精神衛生の為のみであれ、アウトプットだけでもしていきたいと思いますから、開き直りぎみに、バイオリズムにそぐう文体で書いていきますね。
それから、これまでみたいに単発でポツポツと書いているだけですと、自分の中で、文章体験が捨象されてしまい、まとまった形態として構築されませんので、書くことによる、自分のためのカタルシスが半減してしまう気がするんですね。
ゆえに、カタチとして堆積させるべく、短編集的構成にしました。カラーも揃えたいので、なるべく文体を統一してゆくつもりです。
…今回つむぎはじめた、このシリーズとは別に、雑記の集成をもうけてはいるのです。「王様の耳はロバの耳」の童話の、あの床屋さんがヒミツを吐き捨てにゆく木のうろ、ハートの凝りや澱を吐き出し荷下ろしするための、うろ。それにそっくり、ダストシュートみたいな役割をしている雑感録があるんです。が、そちらと別口で、もう少し物語らしいシリーズをやりたいと考えたんですよね。
タイトルは碧兎抄としました。あまり深く考えたわけでもなく、ダブルミーニングでもなく、ひねってもいません。パッとイメージした思いつきです。
もう一つのシリーズに青という色を冠していたから、わが深層心理のやつが何となく呼応させたようです。
…だれもいない砂漠。そこへ、すっと浮かぶ静かな、奇怪で幻想味のある、あおみどり色の月。砂の海はさらに物静かで、もの言わぬ月を受け止めるようである…、
奇妙な現象を素描するように描いていきたいので、看板にはこのようなイメージを持ってきたいと存じました。而して、こんなキザなタイトルを名付けたわけです。ちなみに兎とは月のアイコンですね。碧月抄とすると、ちょっとスワリも悪いし浅いため、ウサギに登場してもらいました。
まあキザで、自己満足ですね。とは言い条、自己満足して、自若しているのが何より僕の望みです。
しかし、それにしても自若とは、自らを若く、と書くんですね。偶然かもしれませんけれど、たしかにアウトプットしていると若返る気持ちがします。よく出来たものです。
さて、マクラが長くなりました。以下から本題に入ります。
…若い時の話です。兄が亡くなって一年か二年でしたかね。まだまだ僕の情緒は不安定でした。が、類は友を呼ぶのか、やっぱりポツンとただ一人、変わり者の僕に付き合ってくれる友人が居たんですよね。名を柳沢としておきましょうか。多少、フィクション的な操作を加えておきますね。だから、これは仮名です。
…また、事実そのものを描写しているワケではなく、物語らしく変型、粉飾、お化粧をほどこしたりもしています。完全な私小説ではありません。お心に留めてください…、
さて柳沢は小学校以来の竹馬の友でした。
アルコール依存症というのは緩徐に発症してくる病ですけれども、この頃から僕は酒びたりで、そうではありながらも一応の定職についていたのと反対に、彼はまだモラトリアム的な雰囲気を残していました。
今ではリッパな堅い仕事に就いているんですが、当時の彼は一心に音楽をやっていましたね。実家住まいで、です。親御さんもそれを許していました。しかし。当時はあんまり感じもしませんでしたが、考えてみると、わりと羨ましい境遇ですよね。
やっているジャンルはロックとかではなくて、ピアノとクラシカルなヴォーカルを織り交ぜたもの。かなり本格的に修練していましたね。まあ、要するところ、浮世離れしていました。芸術家肌の人物です。
けれど。見た目はブルドッグのような感じでした。こざっぱりしているから清潔感はありはすれ、小柄な男で、スンが詰まっているので、どことなく小動物系の印象がある。顔立ちもスッキリしたイケメンというよりは、アジのある愛嬌に富んだ系統なわけです。だけど、やっている音楽を反映して、ちょっと難解な表情をたたえているから、とっつきにくい感を与えもするんですよね。
まあ、そんな彼とよくツルんでいました。
しっかりしてしまった今の彼からは想像も出来ませんが、アル中の色をすでに帯び初めていた僕なんかのところへと、あし繁く通う彼は、少しばっかり社会不安と対峙していたんでしょうね。自分の居場所がない、という。僕みたいな人間のほかにツルむ相手もいないらしくて、何だか妙に真昼間なんか、ヘンな時間に連絡もなしで、不意に現れることが多かった気がします。不意に現れて、唐突なことを話しだすんです。
…それも、独特な話題を選んで。
…例えば、スーパーナチュラル、超自然現象ですとか、オーパーツ、宇宙人。幽体離脱。予言。普通、彼くらいの年で興味を持ちそうもない事柄。正直、彼を知らない人が耳にしたら、ギョッとして敬遠しそうな話題をです。
僕だって仕事があり疲れてもいますから、それなりの感情を覚えもしましたっけ。だけれど屈託もないので、耳を貸してしまうんですけどね。
こんな時、ちょっとばっかり煙たく思いながらも、二人でムヤミに道を歩いた。本当にただ道を歩くんです。そうして他愛ないことを話す。女の子を引っ掛けるわけでもなく。ただ、子供のように歩いて、話すんですよね。
そんな変わった男だったからでしょうか。ひじょうに奇怪な、まあ奇譚と呼んで良いような。
怪談と呼んで良いような。
志怪と呼んで差し支えないような。
不気味な。
一種、おぞましい。
さような体験を、僕の、この肌身の上へと運んできたんですよね。
ここで一旦、区切りましょう。勿論、お話は続きます。