7話 モンスター
それからしばらく、俺は鍛冶の訓練をしながら村の外へと出る準備をしていた。
「違う!そうじゃない!力を込めろ!鉄がダメになる!」
響く怒声。俺は鍛冶の基本の「き」の字も知らない。その為、師匠は1から教えなければならない。とても効率は下がっただろうし、幾つもナマクラを作ってしまった。だが、師匠初めての弟子を見捨てずに根気強く教えてくれた。
ふと、俺は考えた。この量の鉄。どの様に確保しているのか。
「師匠。この鉄は何処から買っているのでしょうか?」
「んぁ?半分位は3ヶ月に1回くる商人からだが、もう半分はここで取ってる」
「!?ここで?ここってここですか?」
「以外に何処があんだよ ここだ」
そう言ってライムが指差すのは扉。否、扉の奥の地面と言うべきだろう。
「ちょっぴり見せていただいても?」
「うーーん まぁこれが終わったらな」
1時間後、俺は扉の奥にある縄ばしごがかかった洞窟を見ていた。
鉱山と言うより、完全に洞窟だった。
「本当にここなんですか?」
「ああ この下に鉱石のモンスターが出る」
「も、モンスター?鉱石から手に入れるのではなく?」
「鉄や銀、金はモンスターから取るのが普通だろ? まぁいい 準備が出来て、俺が声を掛けたら降りてこい」
「わかりました。」
つい、脇差を握る力が強くなる。何しろ初めてのモンスター狩りだ。スライム吹っ飛ばしていきなり洞窟だ。そりゃ緊張する。どんな魔物が出るのだろうか。某RPGゲームの不気味に笑って自爆するあの石だろうか?そんなことを考えていると声が掛かる。
「よし 入ってこい」
意を決する。どんな敵でも掛かってこい。
梯子を降りていく。だんだん肌寒くなってきた。鍾乳洞に行ったときのような。そんな寒さだ。
降りると其処はある程度の広さの部屋だ。とても頑丈そうな扉が目にはいる。
「ここに出るのは、アイアンストーンだ 弱点はさっき説明した通りだ 行くぞ」
「はい!」
扉を開くとと其処は大広間だった。そして、人間の頭程の岩が4つ。あれがアイアンストーンだろうか。行く前にライムから聞いている。
「近づけばあいつは目を開き、襲い掛かってくる だがあいつは動きが鈍い 目と目の間付近にある核を突いてやれ その剣ならば一撃だ」 と
俺は安全思考だ。まず、心の中で念じる
〔カラフルブースト!ウィンドアーマー!〕
敵が目を開く!と同時に目と目の間。眉間の辺りがぼんやり赤く輝く。核だ!
「どりャャー」
ライムがハンマーで、アイアンストーンをかち割る。すげェ。
流石馬鹿力。因みに攻撃力ではライムに圧倒的に勝っているが、ライムは力の流し方が上手いのか、潜在的にオーラの使い方をわかっているのか知らないが、腕相撲で勝ったことがまだ無い。多分、後者だろう。オーラ見てると今馬鹿でかいし。じゃあ俺もやるか!
「はあぁぁ!せいぃ!」
遅い。嫌、俺が速いんだ。攻撃が当たる気がしない。だが油断はしない。直ぐ様、横から襲い掛かってくるアイアンストーンを躱す。そして、眉間を一閃、突く!
「せりゃー!」
ゴツン!ガツン!!
岩が砕ける音が響く。成功だ。しっかり核を破壊出来たようだ。
〔タラン、タンッ〕
これがレベルアップの音だ。どうやらレベルが上がったらしい。Fairly Dungeonでは、ステータス振り分け機能があったがこのスターランドでもあるのだろうか?とりあえずは、アイアンストーンだ。見ると、4~5㎏はあるだろう鉄塊が落ちている。これらはアイアンストーンが体内に蓄えているもので、倒すと外の石が砕け散るらしい。
ライムに視線を送ると、しっかりモンスターを倒している。
さて、どうやって運ぶのだろうか?
「師匠、どうやって上まで運ぶのでしょうか?」
「ああ 任せろ
大いなる時の女神よ 時空を越えて 我にその力を貸したまえ 力よ力 今その力を使い時空を切り開け! アイテムボックス」
時空が歪み、扉が現れる。そしてライムが指差した物を吸い込んで行く。2つで満タンのようだ。少ない。相変わらず、恥ずかしい詠唱だ。...ってあれ?ライムって空間魔法使えたっけ?
「師匠?師匠は空間魔法使えましたっけ?」
「ん? 空間魔法使えなくともアイテムボックスは、生産職か、販売職なら使えるだろ?まぁ俺のアイテムボックスは少なすぎてまともに使えんけどな」
「そうなんですか?初めて知りました」
「はぁ~ 親にちゃんと習っとけ」
「はーい」
「お前も使えるか?アイテムボックス そろそろ鍛冶士持ってるだろ?」
「持ってます。では 大いなる時の女神よ 時空を越えて 我にその力を貸したまえ 力よ力 今その力を使い時空を切り開け! アイテムボックス」
うぅー恥ずかしい。そしてこれも自分のオーラを使わない、生活魔法系の魔法だ。相変わらず無詠唱の練習をしないと使えないやつだ。
指を差して、入れ と念じるとアイテムボックスに入っていく。問題なく両方入った。
「アイテムボックスの量は才能に依存するらしいから 俺はお前に潜在的に負けてるわけか」
「そんなことはないんじゃないですか?」
自然のエネルギーを上手く取り入れれば入れるほど、容量は増すだろうし。
「まぁ俺にはわからん 行くぞ」
「はい。師匠。」
鍛冶場へと戻ってきた。ライムは既に、アイテムボックスの詠唱を唱え始めている。
無詠唱、試してみるか?
意識をオーラへと集中させる。そして周りのエネルギーを自分のオーラで取り込むイメージで......出来た!成功だ。鉄塊2つ出ろと念じる。
ドガン!ドゴン!!
大きな音をたて、鉄塊が落ちてくる。足に落としたら大変そうだ。 師匠も取り出したようだ。また2人の鍛冶場に落下音が響く。
「お前、詠唱したか?してなかっただろ」
ヤベッ。まぁ誤魔化せるだろう。
「いいえ。師匠。ちゃんと詠唱しましたよ。」
「まぁいい 今日は終わりだ これは今日の仕事料金だ」
この世界では、何故か師匠が毎日弟子に給料を払うことになっている。俺は少なくていいと言ったので、毎日銀貨1枚だ。これでも多いと思うが。
「ありがとうございました。また明日、宜しくお願いします。」
「おう またこい」
走って家へ向かう。すっかり日が落ちてしまった。家とここは村の端と端だ。急がなければならない。
「ライト!」
生活魔法だ。ライト、ウォーター、火種は無詠唱で出来るようにしてある。とても便利だ。
俺は村に来てから今日まで、村の人と仲良くなるよう努力してきた。一番仲が良いのは村長のおっちゃん。次に道具屋のタスバさん、銀貨1枚でリュックを譲ってくれた。有難い。
声を掛けられる程度には、仲良くなっていたようだ。
「ハント君かい?こんな時間に何をしていたんだい?」
このキリアの村長だ。
「修行です。鍛冶の。」
「鍛冶ってまさか...ライムかい?」
「そうですが...何か?」
村長の顔が強張る。怒ったようなそんな表情だ。
「明日からもう2度とあいつのもとへ行くのは止めなさい。」
「理由を聞いても?」
「あいつはキリアの裏切り物だからだ。思い出したくもない。この村にとってあいつは最悪なんだ。だから、あいつの元に行くのは止めなさい。今ならナバロにも言わないから、ね?」
「わかったよ。村長。」
これはライムについて、調べる必要がありそうだな...